童磨に言われたことを理解する前に俺の身体は先ほど散々に童磨を追い詰めていた壁に押さえつけられる。
「んぐっ…!」
そしてそのまま腕を囚われ顔を上げさせられキスを見舞われた。居たたまれなさから身をよじってもよじっても童磨の両手は緩むことはない。
まるでその力は上弦の弐を彷彿とさせる。かつての入れ替わりの血戦でのみ奮われたその力を、今は俺を分からせるために使われている。
「~~~…!」
ぞくりとしたものが背筋を駆け抜けていく。それと同時に童磨が俺に向かって放った言葉の意味も理解して、頭の中に沸き起こってきたのはまぎれもない愉悦だった。
「は、んっ…」
腕は童磨によって囚われているのでその背中をかき抱くことは叶わない。だから俺は軽く背伸びをし、先ほど噛みついてしまった彼の唇の傷を癒すために舌先でちょんちょんとその部分を突いてやる。
「んんっ…!」
するとたちまちのうちに童磨は色っぽい声をあげてくる。少々強引に唇を奪ってきたところは何とも魅力的だがまだまだだなという気持ちを込めて、ただひたすらに傷跡を塞ぐように重点的に舐め続けた。
「んぁ、ぅ、んっ、んんっ~~♡」
がくがくと童磨の足が震えているのが分かる。そして俺の腕を掴む手後からも抜けかけてきている。頃合いかと思い俺は童磨の両手から腕を振りほどくと、そのまま背中に回して抱き寄せた。
「んぁ、ぁ…っ」
身体は密着させたままで唇を離せば、まろやかな頬に綺麗に紅が差している童磨の姿がそこにあった。肩で荒く息を吐きながら、少し恨めしそうな目で見つめてくる潤んだ虹色がたまらなく色っぽい。
「ねぇ、俺、まだ怒ってるんだけど…」
ぐい、と唇を指の背で拭う仕草すら様になる童磨に、俺はにやける顔を止められない。
「すまん」
「謝る態度じゃないよねそれ」
そう言いながらも元々怒りを持続させにくいタイプの童磨は、冷淡な言葉を吐きながらも、並行になっていた眉毛を少しずつ下げながら軽く頬を膨らますだけだ。
「…ああ、そうだな。俺が悪かった」
お前との出会い、再会、そして気持ちを疑ってしまい、あんな弱音を吐いた。それがお前の琴線に触れ、お前らしからぬ強引な行動を取らせてしまった。間違いなく全面的に俺が悪い。だが同時にとてつもなく嬉しくて嬉しくてたまらない。
博愛主義者で飄々としているお前の中に、まぎれもなく俺を想う気持ちがあるのを知れたから。
俺ばかりが夢中になっていて、優しいお前が突き放さずに受け入れてくれるとばかり思っていた気持ちを真っ向から否定してくれたから。
「…猗窩座殿は本当にずるいなぁ」
そんな風に嬉しそうに笑いながら謝られたらこれ以上怒ることなんかできないじゃあないかと口元に指の背をあてたままボソッと呟く童磨に更なる愛しさを追加された俺は、ただただ慈しみを込めてその頬に口づける。
「んっ…」
「ずるい俺は嫌か?」
「っ…!」
そのまま耳元に唇を寄せてそっと囁きかけて、ちゅっと形のいい耳にも口づける。
「も、ほんと、あなたってひとは…!」
唇から伝わってくる童磨の火照りが俺にますます嬉しさを覚え込ませていく。
「…もう疑ったりしない」
「…本当?」
「本当だ」
そうして再び真っすぐに童磨の虹色を見つめる。お前に対し謂れのない暴力を振るっていた事実はまだ手放せそうにないけれど、二度とお前と俺との再会を否定することは言わないという誓いを込めて。
「じゃあ、許すよ。俺は「お前は優しいからそう言うと思った」」
「もぅ、俺の台詞取らないで」
言葉を被せてそう言えば、くすくすと穏やかに笑うお前を見て、穏やかで温かい陽だまりのようなものがとくとくと胸の中に降り積もっていく。
「痛かったよな、ごめん…」
「ううん、猗窩座殿が応急処置変わりのキスをしてくれたおかげで痛くないよ」
ニコーっと笑う童磨を見た俺の中に再びキスをしたい欲望が湧き上がってくる。ただし今度はとろとろに蕩けさせグズグズに甘やかしてやりたいという、屋外でするにはハードルが高すぎる類のものだった。
「っ、なぁ…」
「なぁに?」
「今度は二人きりになれるところでゆっくりキスしたい」
「っ…!」
俺の言わんとしていることが分かったのか、一瞬だけ大きく目を見開いた童磨だが、やがてはにかみながらこくんと頷いてくる。
それを確認した俺は童磨の滑らかな指先を捉えてギュッと繋ぐと、足早に自分の家へ向かうために一目散に駆け出していく。
耳と脳みその狭間の部分から聞こえてきた不快な音ももう一人の自分の声も、この日を境に一切聞こえなくなっていた。
座殿が不安に思うのは、どまさんのコミュ力の高さと自分がかつて彼に対して言いがかりのような暴力を振るっていたことに起因するなと思いながら書いていました。
座殿は〝昔〟の自分を卑下するけども、どまさんは生まれて初めて好きになった人を例え本人であろうとも卑下されたくないって言える人なんじゃないかと思います。
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