邂逅

無機質で灰色の街並みは降りしきる雪により白く塗り替えられていく。
 そんなけぶるような雪霞の中、童磨は一人歩き続けていた。
 白橡の髪の頭頂部にハッキリと浮かぶ紅のメルト模様にも雪が積もり、白皙の青年はまるで精霊のような神秘的な雰囲気を醸し出している。
 そんなどこもかしこも白く塗りつぶされていく景色の中でもハッキリ鮮やかに遠目からでもわかる筏葛。その懐かしく鮮烈な色を認めながらも特に急くことはないまま童磨の足取りは一定の速度を保ったまま近づいていく。
 さく、さく、さくと黒いブーツが薄く降り積もった雪を踏みしめる傍からはらはらとした天花がその足跡を消していく。
 時間にして一分弱。ようやく筏葛の正体が分かるまで近づいた童磨の影が白銀の大地に灰色に伸びる。そしてもう一人分の影も。
 童磨の虹色の瞳に映る人影の正体は、彼よりも一回り背が低い筋肉が隆々とした青年だった。
 髪と同じ鮮やかでふさふさとしたまつ毛に縁どられた猫目石のように釣りあがった鬱金色の瞳は悲し気に伏せられている。そしてこの寒い中、アンクレットを嵌めた脚は素足であったが、童磨も目の前の人物も特に気にする素振りもない。
 短い桃色の短衣に裾を絞った白い長衣。そして薄い緑色の組紐を腰に巻き付けた青年は意を決したように前へ一歩、また一歩踏み出してきた。
「…」
 童磨は何も言わずに彼がこちらに来るのを待つ。その間も雪は止むことを知らず、二人を軸とする広い世界に振り続けていた。
 やがて青年の足が止まる。そして悲しげな表情をさらに悲痛に歪めたまま唇を噛みしめた彼に、童磨は小さく微笑みを浮かべ、虹霓こうげいに染まる爪紅を持つたおやかな手を差し出した。
「…猗窩座殿…」
 童磨の柔らかな声が彼の名を呼ぶ。すると彼……猗窩座の藍色に染められた指が一瞬強く握りしめられそうになるも緩やかにほどかれ、差し出してきた童磨の手にそっと触れた。
「童磨…」
 猗窩座の金玉きんぎょくの声が童磨の名を呼んだと同時、二人は互いに磁石のように引き合い固い抱擁を交わす。
 
 猗窩座は童磨の豊満な胸に顔を埋めるように。童磨は小柄ながらも逞しい猗窩座の身体を温めるように。
「…逢いたかった…」
 大柄な童磨の肩と腰に腕を回した猗窩座が目を閉じながら、万感の想いを込めて囁く。
 ずっとずっと逢いたくて仕方がなかった。猗窩座殿、と柔らかく名前を呼ぶ声が恋しくて仕方がなかった。
 ずっとずっと己の名前を呼ばう彼と共にあるものだと信じて疑っていなかった。
「逢いたかった、童磨…!」
 ぎゅううっと背骨と腰が折れんばかりに猗窩座の腕が童磨の体に巻き付けられる。ちょっとちょっと、手加減しておくれよと苦く笑う童磨の声に慌てて腕を緩めた猗窩座の身体はその声の主によってさらに深くかき抱かれた。
「俺も、逢いたかったよ猗窩座殿…」
 意外にも柔らかい猗窩座の髪に顔を埋めるような形で童磨も囁く。雪の匂いに上書きされつつあるが、彼のストイックさを物語るかのような草木の瑞々しい香が童磨はたまらなく好きだった。
 懐かしい香りを胸いっぱいに吸い込みながら、その体を温めながら彼の体温を感じるように、童磨は強く強く猗窩座を抱きしめる。
「…ずっと、待たせてたよね。ごめんね」
 身体を離し、じっと猗窩座を見つめ虹色の瞳を申し訳なさそうに細めるも、猗窩座は小さく首を振った。
「お前はいつも待っていてくれた。…こんなのなんてことない」
 そう言って涙をこらえて笑いかける猗窩座の両手を童磨はそっと取り持ち上げる。
「ふふ、猗窩座殿は本当に優しいなぁ」
 流石俺の親友だなぁと嬉しそうに笑う童磨につられて猗窩座も微笑んだ。
 
 冷たい街を埋め尽くすだけだった雪はいつしか明るさを帯びていく。
 
 まるで両手を取って今にも踊り出さんばかりの虹色と向日葵色の瞳を持つ二人の青年を祝福するかのように、六つの花の結晶を舞わせながら。

 

とある動画の内容をそのままなぞらせてもらった話です(限定公開の動画なのでリンクは貼りません)。とにかく猗窩童は雪が似合う♪
一応こちらはSS名刺でも読めますが、折角書いたので。

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