落ちこぼれのメリークリスマス - 1/3

街の中はどこもかしこもクリスマスシーズン一択であり、昔なじみのクリスマスソングが鳴り響いている。
予定も何もないので仕事のシフトを入れ、凍える手をポケットの中に入れながら猗窩座は一人、聖夜に浮かれる人込みの中、眉間にしわを寄せ疲れた体を引きずるように歩いていた。
ある者はシャンパンとオードブルを、ある者はプレゼントを抱えて、そしてまたある者は恋人同士と隣り合い腕を組みながら幸せそうに歩いている。
まるで甘ったるさと幸福のバーゲンセールのようなこの雰囲気は今の自分にしてみれば毒でしかなく、いっそのことめまいでも起こして倒れてみるのも一興かと仄暗い感情に支配された猗窩座の耳に届いた、それ。

「ねーねー、童磨さん。クリスマスプレゼントちゃんと買ってくれたのー?」
「梅、お前なぁ。そんな堂々と強請る奴があるか」
「ははは、良いんだよ妓夫太郎君、梅ちゃん」

人でごった返す向こう側の道から聞こえてくる朗らかな少女の声とそれを窘める少し高めの嗄れ声とそれを柔らかく受け止める耳にしっとりと残る甘い声。

その最後の声を聞き届けた猗窩座は丸めていた背中をガバリと起こして急に立ち止まり、声のした方向を振り返る。そんな猗窩座の突然の行動に行く道を阻まれた人々は怪訝そうな顔をしたりあからさまに邪魔だと言わんばかりに顔をしかめて彼を避けて通り過ぎていく。
きょろきょろとあたりを見渡せば幅の広い道の比較的車道側を歩いていたのが功を奏したのか、三人の姿は車とフードデリバリーサービスの自転車がビュンビュン通り過ぎる車道の向こうですぐに発見できた。白橡の髪はファー付きの防止で隠されていたが抜きんでて高い身長と整った顔立ちは一際人込みの中で目立った。それに付随するようにかつて彼が拾った二人の養い子の顔も一瞬見えた。童磨が一番車道側を歩き、その隣に兄が、兄の隣に妹が仲良くピッタリとくっついていることも。
猗窩座はとっさにそこへ行こうと駆け出そうとする。しかし人でごった返す道では思うように進まず、通行人の身体やら脚やらにぶつかるばかりで歩を進めることなど出来ない。それどころか、危ねえな!痛ぇだろがボケ!とどつかれるもそれに構わずどうにか車道側のガードレールにまで移動することに成功した。
丁度人込みも車も自転車も途切れたその一瞬、去年まで恋人だった男…童磨は相変わらず綺麗な顔をしており、隣にくっついている兄妹を交互に微笑ましそうに眺めている。
「プレゼントの前にまずご馳走だよね。それからケーキを食べようか」
「もう童磨さんったら! 全部いっぺんにしてもいいじゃない! あたし早くコフレ見たいしお兄ちゃんからのプレゼントも貰いたい!」
「だから梅ぇえ、お前はああああ」
「ははっ、ホント梅ちゃんはプレゼントの贈りがいがあるなぁ」
「…童磨さん、あんま甘やかさないで下さいよおおお」
「…君がそれを言っちゃう?」
その瞬間、時間が止まったように猗窩座は動けなかった。道路を挟んだ向こう側、そんな賑やかで穏やかな会話を中断させるように大声を張り上げて名を呼べば、兄妹たちから睨めつけられてもきっと童磨は振り向いてくれる。しかしあまりにも穏やかで優しく二人を…正しくは隣を歩く妓夫太郎を見つめる童磨の横顔が目に入ってきた猗窩座は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

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