一昨年のクリスマスまでは童磨と二人で食べようと小ぶりのホールケーキとチキンを持っていた手にはチューハイと焼き鳥が入ったビニル袋がぶら下がっていた。だがそれも今見た光景のせいで力なく道路に落ちていて、幾多もの通行人に踏まれて蹴飛ばされて見るも無残な形になっている。
向日葵色の瞳に映る幸せそうな三人の姿。過去あいつが拾い血を与え救いを与えた養い子達と戯れる姿にもしかしてあいつは記憶を取り戻したのか!? という想像を巡らせるがそれは考えるだけ無駄なことだと猗窩座は瞬時に覚った。
〝昔〟の記憶から顔を背け、親友として生きる約束をこちらから反故にし関係性を変え、あまつさえ童磨の優しさから逃げ出した弱者である自分が今更あの三人の間に割って入れることなど出来ないという外聞はあった。
恋人として別れ親友としても戻らなかった猗窩座がこの一年の間に童磨に何があったか知る由もない。一方的に別れを切り出されてどう過ごしていたのかも、いつあの兄妹と再会したのかも、妓夫太郎と恋仲になったのかも。
スローモーションのように猗窩座の目の前を通り過ぎていく三人のうち、ふと童磨が車道側に顔を向けようとする。とっさにかつての恋人の名を叫ぼうとした瞬間、未練がましいとあざ笑うかのように数台のトラックがひっきりなしに通り過ぎていく。
…まさん? どうしたんだあぁ?
…ぅたろうくん、あぁ、なんでも…
トラックが走り抜ける合間に微かに聞こえてきた声は、不甲斐ない猗窩座に向けて贈られたせめてもの情けだったのだろうか? それとも逃げ出した自分に対する罰だったのだろうか?
全てを捨てて駆け出せないまま立ち尽くす猗窩座の視界には、すでに童磨たちの姿は無く、二人の時間は本当に終わったのだと言わんばかりに、白い雪がしんしんと雑踏の足跡をかき消すように降り始めていた。
今回は山根康広さんの曲だったけど、個人的にはマリスミゼルのJu te veuxも似合うと思ってる。
過去の記憶に固執して今のどまさんを見えていない座殿の絶望とかやるせなさとかそういうのを書きたかったので書けて満足です♪
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