いつの間にか寝室でしかキスをしなくなった。
ねえねえ猗窩座殿と、後ろからじゃれつきながらアイツに難なく抱え込まれればスッポリと収まってしまう俺の身体。
暑苦しいから離れろと、渾身の力を込めて振りほどこうとしても一度では離れていかない。
離してほしい?と問われて苛立ち紛れに口を噤めば、つい、と薄縹色の爪を持つ指で顎を捉えて唇を奪われる。
あと2回、3回、4回…その日によって数はランダムだが…、キスをしてくれれば離してあげるよと甘ったるく囁かれて、俺は渋々と言った体でアイツとキスをする。
圧倒的に座ったままの状態からちょっかいをかけてキスをするように誘導されるのは、俺がアイツとの体格差に思うことがあるのをアイツが知っているからに他ならない。
アイツの体格がいいのは、今に始まったことではない。
それこそ”昔”アイツに対しワケもない苛立ちを覚えていた頃から、鍛えているわけでもなく柱や女を好んで喰うしか脳がないのに、何故体格に恵まれているのかというのも気に喰わない要因の一つだった。
最もその根本的理由は、俺よりも強く俺を気にかけていた奴らは全員俺を置いて逝くという己の弱さと拭え切れない恐怖からだったわけで、それこそ言いがかりでしかないのは重々理解している。
だから地獄で罪を償い終えてもう一度この世に生まれ、アイツと再会した時、ほんの少しもしかしたらとは期待した。
今度こそはアイツと体格の差を埋められるのではないか?
今生では病弱だった親父も元気でいるので食うには困らなかったし、前世の前身だった狛治とは双子の兄弟として生まれ、共に慶三師範の元で素流で体を鍛え上げていたので、自信はあったのだ。
だがアイツは以前の体格とほとんど変わらなかった。
こうなると元々の素体が良かったとしか言いようがないし、これを妬み嫉むのであれば俺は心の底から人でなしのロクデナシだ。
“感情が希薄な頃”のアイツなら察される心配などなかった。
だが今生では感情が豊かになったらしい童磨は、俺が心の底でひそかにコンプレックスを持つことに気づいてしまっていた。
だからこそこうしてキスをするシチュエーションを絞るようになったのだろう。
だけどもそんな優しさは、正直空しいだけだった。
「あ、かざどの…」
仰向けに押し倒しながら体を重ねる最中で、かすれた声で俺を呼ぶ声。
ああ──…
ようやく、出来る。
苛立ちも空しさも感じない、ただただ互いを欲するこの時間ならいくらでもキスが出来る。
「も、っと…もっとちょうだい」
薄縹色が彩る両手の指先が俺の頬を包む。
俺の熱よりも快楽よりも、真っ先にキスを強請るコイツが哀れだとは思う。
たかが身長の差。
されどキス。
唇を重ね、下唇を軽く噛み、舌先を絡ませながらぼんやりとそんなことを考えた。
「っぁ…!」
すでに胎内に埋め込んでいる熱塊で内部を軽く突けば、首筋を小さくのけぞらせて唇が離れていく。
それを逃さずもう一度捉えてまたキスをする。
何度も
何度も
何度でも。
互いに苦味と酸欠を覚えても、まだそこに存在する甘さを上書きして、途切れさせないために。
BGM:頭がおかしい(彩冷える)
初期の頃の猗窩童。このツイートを見て思いつきました。
もしも座殿が身長の差をあえて気にしていたらどうなるかを妄想したら切ない感じになりました。
鬼の頃ならいくらでも擬態はできるけど、拙宅に限ってそれはあり得ないシチュエーションなので、余計に座殿のもやもやが募るという、そんなもどかしさを書きたかった。
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