その②の幕間
「ねえねえ猗窩座殿」
ぎゅっと繋いだ手はそのままで俺たちは足早で学校から飛び出し、繁華街へ向かうバス停へと向かっていた。俺たちが着いたのとほぼ同じタイミングできたバスへ乗り込み、空いている二人掛けの席に座り一息ついたところで童磨がためらいがちに口を開く。
だんだんと温かく心地よくなる季節。まだ肌寒さは覚える日々はあるものの、今日はポカポカとした日差しが気持ちよく、少しだけ汗ばんでしまったがそれでも俺は童磨の手を離すつもりはなかった。
「何だ?」
心当たりは非常にある。隣に座る童磨の顔を見ると、案の定もともと垂れがちな太眉を更に下げて困ったような顔をしていた。
「…何かあったの? あの人たちと」
何でもない、などと言えるわけがない。俺はあの時童磨を侮辱したCを心底許せなかった。あと少し童磨の到着が遅れていればあの男の顎骨をへし折っていたかもしれないという自覚はある。
だがそうした原因に言及されても、お前を侮辱されたからだということは憚れた。お前のために怒ってやったなどと口が裂けても言いたくはない。何知らないくせにお前のことを侮辱した奴らのことに、俺の童磨の意識を向けさせたくはなかった。
「…お願いだよ猗窩座殿…、何があったのか教えてほしい」
「っ…」
だが無意識のうちに眉根を寄せて難しい顔していたのだろう。童磨は繋いだままの手をぎゅっと両手で握りしめて懇願してきた。
「…お前に…」
「うん…」
小さく息を吸い吐き出したタイミングで少しずつ言葉を紡いでいく。
「俺が、”そう言った意味”で可愛がられているのかって聞かれて…」
「…うん」
知らず手に力がこもるのが分かる。そして童磨も先を促すように、きゅっと俺の手を改めて握り直してくれた。
「…それだけなら別に良かった。でもあいつら…、お前のことなんも知らないくせに…っ」
これ以上は口に出すのも腹立だしくおぞましい。よりによってあいつらはお前が俺を性的搾取しているのだと下種の極みの勘繰りをしやがったのだ。しかも言いがかり極まりない、身長が俺より高いから、体格差があるから、顔つきがそうだからといったクソふざけた理由でだ。
「…そっか…、そうだったんだね…」
話してくれてありがとう、そう言って改めて手を繋ぎ直される。汗ばむくらい温かい気温のはずなのに、童磨の掌の温もりは染み入るほどに心地が良い。
「…身長が高いとか低いとかでその人となりを決めつけるのって、本当に哀れだよねぇ」
しみじみと童磨はそう呟く。そこに憤りは感じられず、ただただあの三馬鹿を憐れんでの台詞だというのが分かる。
そんな風に温度差のある童磨を俺は薄情だとは思いもしない。同じ熱量で怒らないからといって俺のことを軽んじているなどと言うのは、それこそ思い上がりでしかない。
「…誰よりも猗窩座殿は格好いいのに…」
ぽつりとつぶやく童磨の顔を思わず見つめ直せば、少しだけ照れたように笑っていた。
「俺より身長が低くたって、体格が小さいからって、猗窩座殿が格好いいのは変わらないのにね」
そんなことも分からないなんて本当に頭が弱くて可哀想な人たちだよねと、ふふっと笑う童磨の肩に思わず額を押し付ける。
ああもう、お前、そういうところだ。そういうところだぞ童磨。
車内に人がほとんどいなくて良かった。別に見咎められたとしても男子高校生のふざけ合いの日常として片づけられるじゃれ合いだろう。
「猗窩座殿…」
繋いでいた童磨の手が俺の髪を撫ぜるためか離れようとするが、俺はそれをぐっと握りしめ阻止をする。髪をなでるよりも今は手を繋いでいてほしい。
「えー、手、離してくれなきゃ頭撫でられないよぅ」
むむぅと唇を尖らせているのがありありと分かる口調で抗議されるも、あいにくと俺も譲る気はない。
「もう少しこうさせて欲しいんだ。頼む」
「…猗窩座殿のお願いなら仕方がないなぁ」
俺は優しいからなという口癖の通り、本当にこいつはいつだって俺を甘やかすんだ。それこそ”昔”からずっと。
「…ありがとな、童磨」
「いいよいいよ、俺がしたくてやってるんだから」
俺だってもう猗窩座殿以外にこんな風にしたくはないんだと続いて告げられた言葉に、俺はますます童磨の肩に額をぐりぐりとマーキングの如く擦りつける。
そんな俺のつむじに、ふと柔らかい感触が降ってきたのを感じ取り、顔を上げた俺の唇に触れるか触れないかのキスを童磨が仕掛けてくるのはそれから32秒後のことだった。
トラブルの後はお約束でラブラブと甘やかす猗窩童が美味しいですね(^p^)
どまさんは本当座殿を甘やかす天才ですわ♡
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