それから数年後 猗窩座の身長が178㎝になってます
ホカホカと湯気の立つ味噌汁の今朝の具材は長ネギとカボチャだった。
メインのおかずはサンマと大根おろし。それから副菜にはビーンズトマトサラダとブロッコリーとだし巻き卵で決まり。
ご飯は腹七分くらいに盛り付けて、デザートにはプレーンヨーグルトとバナナとキウイを用意していた童磨の後からぬっとあらわれた影があった。
「おはよう、童磨」
「あっおはよ、猗窩座殿」
「今日も美味そうな飯だな。さすが俺の嫁。腹が鳴る」
「もぅ、そんなこと言って…」
セミオープンキッチンに入ってきた猗窩座は日課のジョギングを終えてシャワーを浴びて来たのか、半裸の状態にバスタオルを首にかけている。ドライヤーで乾かすことはせずにガシガシと噴いただけに留めたであろう筏葛の髪はまだ濡れており、そこからふわっとした彼の香りが漂ってくる。
そんな猗窩座の姿を見て童磨はとくり、と胸を高鳴らせた。
「童磨…」
「ひぅっ」
間近に迫ってきた彼の顔がそろそろダイニングへ料理を運ぼうかとした童磨の肩に無理なく乗せられる。豊かなまつ毛は出会った頃、否、〝昔〟から変わっていないが、年年歳歳顔つきは精悍さを増していく。
(猗窩座殿…今日も…)
〝昔〟も今も口達者だった童磨が言葉に出せないほど、年を重ねていく猗窩座の匂い立つ男としての色気に頬が紅く染まっていき、胸も軽やかなときめきからドキドキと煩いくらいに高鳴り始めていく。
そんな彼の様子を見ながらくっくっくと喉の奥で笑う猗窩座は、仕事の傍らに行う筋トレによって節くれだった指先で童磨の顎をそっと掴んでこの日一番のキスを見舞う。
「んっ…!」
昨晩散々に交わしたものとは違う新たな一日の最初のキス。今生も童磨の方が背が高いので猗窩座からのキスは下から掬い上げる形になるのだが、彼が高校二年生で童磨が高校三年生の頃から少しずつその差は埋まってきていた。
「は…」
出会った頃の猗窩座の身長は173㎝。〝昔〟と変わらない背の高さだった。対して童磨は昔に比べて小さくなったものの181㎝だった。その差は8㎝にまで縮まったものの二人はさして気にも留めていなかった。〝昔〟は〝昔〟、今は今。ましてや〝昔〟は身長の差を意識するほどに互いに距離を縮めることなど出来なかったのだからと親友として親交を深めていった彼らだったが、恋人として付き合いを改めた際、それについて触れてくる輩たちが増えてきた。
ある者は童磨に身長が低い猗窩座など相応しくないから自分と付き合えと身の程知らずに言い寄り、またある者共は童磨の身長が高くルックスも華やかなため下世話な噂を囃し立て猗窩座を面白半分で揶揄いもした。そのどちらにも当事者であるお互いが関わり、ありのままの恋人が一番だと直接口にすることで絆はより太くなっていったのだが、先述の通り猗窩座が高校二年生の頃に176㎝になったことで、彼らにとっての当たり前の差は徐々に変わりつつあった。
「んぁっ、ぁ……」
〝昔〟の自分は感情が薄かった代わりに大柄で豊満な体躯を与えたのだからというのは猗窩座の弁だ。それはもしかしたらあながち的外れではなかったのかもしれないと口づけを与えられながら童磨は考える。何故そう思えるのか? それは今目の前でキスを交わしている他ならぬ猗窩座が証明しているからだ。
「は、ぁ、ん…」
高校を卒業してからも順調に付き合いは続いており、猗窩座が大学に入ったタイミングで始めた同棲もそろそろ5年目を迎えようとしている。その間、猗窩座は更に身長を2㎝伸ばし178㎝となっている傍ら、童磨の身長は181㎝のまま停滞している。
どんどん身長の差を無くして自分に近づいて来る猗窩座の顔に、童磨は年を追うごとにドキドキしてしまう。だって〝昔〟の中の彼は自分より一回りも小さくてそれでいて手負いのハリネズミのような危うさがあり、あどけなさの残る青年だった。
それがこんな大人びた顔を文字通り間近で見つめてくるなんてこと、想いもよらなかったしいつまでたっても慣れない。元々童磨は相手の手持ちを全部出しきってから全力を出す性質だった。その分イレギュラーに弱い部分があり、そして猗窩座はそんなイレギュラーを引き起こす天才なのだ。
「ふ…ッ」
「おっと」
途端足がかくんと抜けそうになる童磨を猗窩座は支える。目を細めながら軽く唇を舐める舌先に知らず童磨は目を離せない。
「危ないぞ童磨。昨晩は無茶させたか?」
「ッもう…!」
そういうとこ、そういうとこだよ猗窩座殿!!とぽかすかと叩いて来る童磨の拳を猗窩座は避けることなく受け止めてやる。愛の拳だと思えばなんてことはない。
「っ」
「あっ!」
とは言ったものの手加減しているとはいえ成人男性の力は中々に強く、ほんの少しだけ童磨の拳が猗窩座の顔に当たってしまい小さく猗窩座は痛みに呻く。
「ご、ごめん猗窩座殿、俺ってば」
「いいいい、気にするな。それに俺はわざとよけなかったのだ」
こんなの恋人同士のちょっとした戯れだろ? とかつて童磨が言った言葉をアレンジして返してやれば、ますますはにかんだ顔になる恋人が可愛くて可愛くて仕方がない。
「~~~、ホント猗窩座殿ってば」
「はは、お前の方こそすっかり可愛らしくなったな」
「~~~もう! もうもうもう!!」
今度は牛になってしまった愛しい恋人の愛の拳を再び難なく受け止める。だが童磨は先ほどのことを頭に置いてかこちらに痛みを与えないように気を付けながら叩いてくるのだが、それがたまらなく健気であり、新たな愛しさが湧き上がってくる。先ほどの言葉ではないが、〝昔〟の童磨の言葉を借りるなら『こうやって恋人としての親睦を深めていくのだ』と言ったところだろう。
だがやられっぱなしの性分ではない猗窩座は、ぱしりと乾いた音を立ててその拳を受け止めるとそのまま童磨の身体を更に引き寄せてしまう。
「ぁっ…んっ…」
啄むだけ、触れるだけのキスでは物足りない。散々にその気持ちを伝えたはずだがそっちがその気であるならこちらとて容赦はしないと言わんばかりに、猗窩座は下から掬い上げる形で童磨の唇を舌先でこじ開けて深く貪るようなキスを仕掛ける。
「ん、ぁ、は……っ」
朝ごはんの準備ができているキッチンには似つかわしくないぴちゃ、くちゅ、ちゅく、という淫靡な音があたりに響く。昨晩の愛の営みの余韻をもう一度その体に呼び覚ますようなキスを見舞われ、立て直したばかりの童磨の足はかくんと力が抜け落ちそうになる。
「っと」
そんな恋人の身体を受け止めた猗窩座はキスを解きニマリと笑う。向日葵色の瞳はすっかり情欲にまみれた獣のような色を宿しているが、恐らくそれは自分も同じなんだろうなと蕩けかけている頭で考えていた童磨の身体がふわりと浮かぶ。
「な、朝ごはんはお前がいいな…」
難なく自分の身体を姫抱きにした猗窩座に、童磨の胸はとくとく高鳴りっぱなしだ。本当に、こんなにも格好良くなるなんていい意味で予想外だった。
ぅん…と、か細い返事しかできない代わりに了承の意を示すため、童磨は猗窩座の太い首に両腕をギュッと回す。そのすぐあと、上等、という言葉が吹き込まれたと同時、昨晩まで散々に愛し抜かれて愛し抜いた、二人だけの極楽へもう一度舞い戻っていく。
果たして、身長の差など物ともしないほどに想いを与え合ってきた二人がこの日一番の愛を午前中いっぱいかけてお互いに確かめ合い貪り合うこととなる。童磨がすっかり用意していた朝食は冷めてしまったが、愛する恋人との営みでホクホク顔の猗窩座がきちんと温め直しと配膳を行い、その後すぐにお腹が減ったと起きてきた童磨と一緒にブランチとしてしっかり美味しく胃袋の中に納められ、二人の甘い一日はようやく始まりを告げたのだった。
お付き合いいただきありがとうございました!
ぶっちゃけ思ったのですが、ヒロインより背が低い男の子ってめちゃくちゃカッコいい人多くありません?
自分の知る限りでは…
例①BØYの岡本清志朗くん
例②ジョジョ4部の廣瀬康一くん
例③ダイの大冒険のダイ君
例④Theかぼちゃワインの青葉春助くん(懐かしのアニメスペシャルくらいでしか見たこと無いけど)
個人的にこの辺を思い浮かべます♪
多分他にもいると思いますが、背の低さと器のデカさって全然関係ないんですよね。そんな風に座殿を書いていけたら良いなと思います♪
何度も言うけど、『どまさんの体格が大柄なのは優しさと大らかさの表れですね』という解釈をしてくださったSさんには足向けて眠れない。何度でも言いますが、とても優しくて心温まる解釈をありがとうございました!
【追記】それから数年後についてですが、これ実は今年不惑になった弟と久しぶりに会ったら明らかに背が伸びていたので、ちゃっかりネタに致しましたw
本人曰く、ヨガやってたら姿勢が良くなったからそのせいじゃねえかと言ってましたが、だったら鍛練を欠かさない上きちんと自分の呪いを解いた猗窩座もあと2cmは軽く伸ばせるだろうと思って書きました。非常に楽しかったです/(^0^)\
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