クリスマス猗窩童まとめ - 3/3

Happening present for you

※狛恋夫婦に子供がいる描写やクロスオーバーネタちょこっとあります。

 お互い仕事が一段落したのでデートでもしようかと猗窩座が誘い、童磨が快諾したのが三日前のことだった。
 だがそれから二日後…つまりデート一日前、猗窩座の後輩がどうしても仕事で分からないところがあるのだと泣きついてきたため、彼は会社に行くこととなってしまった。折角の休日に水を差されたと上弦の参に舞い戻ったかのような形相の猗窩座に『後輩君に悪意はないんだから苛めないであげてね』と童磨が苦笑しながら釘を刺すも、しばらく彼の機嫌は治らなかった。 〝昔〟のように暴力に訴えかける八つ当たりは勿論今の猗窩座はやりはしないが、楽しみにしていたデートを取り上げられたと、自分の胸に顔を埋めるように抱き着きながら不貞腐れている恋人に童磨は折衷案を出す。
『そのお仕事は一日かかるものなのかな?』
『いや、そんなにかかりはしない。半休扱いにはしてもらえるだろうから』
『じゃあ、折角だから待ち合わせしないかい? なんだかんだ言って久しぶりじゃないか』
 一緒に暮らし始めてからデートと言えば家から一緒に出掛けることだとルーティン化されていた猗窩座は童磨のその一言にガバリと身を起こして顔を上げた。
『ふふ、ようやく俺の方見てくれた』
 筏葛の髪を撫でつけながら笑いかけて来る童磨に少しだけばつの悪そうな顔をするも、不貞腐れて悪かったと猗窩座は素直に頭を下げる。
『いいいい、気にすることはない』
 俺は優しいからというお決まりの言葉を紡ぐ唇にたまらなくなった猗窩座がそっと口づける。ん、と小さく声をあげながらも口づけを受け入れた童磨の身体をそっと押し倒し、明日のデートまでのモチベーションを保てるようにご褒美をくれと強請れば、猗窩座殿は本当におねだりが上手だなぁとまた笑われる。それでも『俺はあなたが好きだからな』と告げ、望むままの褒美を与えてくれることを享受してくれた童磨を猗窩座はその晩思う存分愛し尽くしたのだった。


 そんなやり取りを経て迎えたデート当日。申し訳なく思いながら指示を仰ぐ後輩に二度はないと上弦の参ほどではないが闘気を発しながら教えた甲斐あってか、きちんとその内容は理解できたようだ。
 半休にしてもらうという言葉の通り午前中いっぱいまで会社に残り、後輩に何度もアウトプットをさせて内容を覚えさせる作業をし終え、肩の荷が降りて晴れやかな顔をした後輩と共に猗窩座は職場を出た。
 何度も礼を言われるのもいい加減鬱陶しくなった猗窩座は、そう思うなら休日のデートの邪魔をしない程度に出来るようになれと後輩に発破をかけ、挨拶もそこそこに待ち合わせ場所へと駆け出して行く。

 週末ともなればうんざりするほどの人間が駅でごった返している。公共交通機関を使うよりも走った方が早いと思わないでもないが、何せ今日は愛する童磨とのデートだ。汗臭く見苦しい姿で共に歩くわけにはいかないと大人しく電車に乗って待ち合わせ場所へ向かう。
 会社から何駅目かの目的地に辿り着くと猗窩座と共に多くの人間が改札口へと降りていく。服装にはうるさくない職場なのでデートでも見栄えするカジュアルスーツを着こなした猗窩座をチラチラと見つめて来る女性たちもいるが、生憎と彼はそんな視線など気づきもせずにただただ童磨が待つ場所へと向かう。
 時期が時期だけあってそこかしこにクリスマスのオーナメントや電飾が飾られる街中にある複合商業施設へ入っていけば外の寒さが嘘のような温かさが猗窩座を出迎える。
 入り口からしばらく歩いたところに吹き抜けの大きなホールがあり、そこに飾られているクリスマスツリーの前で待ち合わせようと決めたのだが、その場所にたどり着く前に猗窩座は童磨を発見することになる。
『あの服屋の前にいた男の人、めっちゃカッコいいよね~』
『うん、キラキラした目が綺麗だしモデルさんかな? でも彼女いるんだろうなぁ』
 目的地に向かおうとする最中、耳に届いた通りすがりの女子高校生の声に思わず猗窩座は足を止める。
 キラキラした目、モデルのような格好いい男。それだけの単語で自分の恋人を指し示していることが分かるが、後に続いた言葉は一体どういう意味なのか。
 その二人を捕まえて今の会話を聞こうとするもすでに彼女たちの姿は無い。恐らくずらりと並ぶ店舗のいずれかに入ってしまったのだろう。
 チッと舌打ちをしながらも猗窩座は彼女たちがやって来た方向を見やり、大体のあたりを付けて童磨を探そうと腹を括る。もはやそれはただ単に会いたいからという気持ちだけではない、自身の中に湧き出てきた疑念を解消したいという感情の方が大きかった。


 果たして童磨は猗窩座が思っていたよりもあっさりと見つかった。
件の女子高校生たちがやって来た方向に歩いていけば、時間にして二分もないところにある服屋で確かに童磨はぼんやりと服を眺めていた。
 その店の雰囲気はどことなく柔らかく女性客も多いように見える。童磨のような中性的で優し気な雰囲気を持つ者ならばともかく、己のように武骨な男が入るには多少なりとも勇気がいる、そんな店だった。
 ではなぜそんな店に童磨がいるのか。ぼんやりと眺めているように見えるのは自分がそう認識したいがためではないかと、グルグルと猗窩座の思考は回り始める。

 誰のためにお前はそれを選んでいる? 元上弦の陸の妹の方か? それとも双子の兄の娘の方にか?? もしくは異世界からやって来た友人に対してか!?

 悪い予感ほど自覚してしまえば際限なく負の方向へと心を囚われてしまう。だがまだ童磨にそのことを詳しく聞いたわけではない。勝手に邪推して嫉妬をした先に何があるのかを身をもって知っている猗窩座は深呼吸をしながら自身を落ち着かせ、静かに彼の傍へと歩いて行った。
「童磨」
 比較的穏やかな声と表情を作れたと思う。自身の気持ちを一度脇に置き恋人に声を掛ければ童磨はすぐにこちらを振り向いてくれた。
「あ、猗、窩座殿、お疲れ様」
 だがその声と表情は明らかに気まずいという色を隠せていない。いよいよもって疑念は確信めいたものになるが、先走ってはならないと気を引き締めた猗窩座は駆け引きなどせずに真っ向から切り出した。
「このカーディガンがどうかしたんだ?」
「あ、あのね、これ…」
 恋人が今しがた見ていたカーディガンを手に取りながら尋ねると、今度こそ明らかに童磨は言い淀む。


まさか…、本当に…?
俺以外の、女に…?


 横っ面をガツンと殴られた感覚に襲われるが、やはりここは我慢の時だと、猗窩座はグッと問い詰めたい気持ちを飲み込む。
「似合うかなぁって思って見てたん、だけど…」
 言いづらそうにはにかむ童磨に、一体誰にだ!? 俺の知っている奴か!?!?と叫び出しそうになったが、どうにか押さえつけることができたのは、猗窩座自身の理性と童磨に対しての愛情故の行動だった。


 だってまだ、決定的な一言を彼の口から聞いていない。
 それに先程打ち立てた仮設通り、己の姪や恋人の〝昔〟の元養い子の妹の方、可能性は限りなく低いが自分と同じくらい妻を深く愛している夫がいる異世界の友人への贈り物の可能性だって十二分にある。
 何度も言うが勝手に邪推して嫉妬をして、墓穴を掘るような真似は〝昔〟だけで十分だと、猗窩座は口火を切った。
「そ、そうか…。お前が良いと思うのなら買ったらどうだ?」
「えー…、でも…」
 少し困ったように眉を下げる童磨を見て、だんだん猗窩座は疑念よりも腹が立ってきた。勿論愛する恋人にそんな逡巡させるような顔をさせる相手に対してだ。
 この俺を差し置いてコイツにこんな顔をさせるなどと大それた真似をしでかす輩は一体誰だ!? 知人なら多少手加減をしてやってもいいがそれ以外の奴は問答無用でブッ飛ばしてやる!と、地獄の底から大魔神を召喚しそうになる程の怒気を放つ。
「ユニセックスデザインだけど、好みじゃないと思うんだよねぇ…」
 そう言って手に取ったカーディガンはゆったりとしたニット素材のVネックで、ライトブルーとライトピンクのグラデーションの模様だ。それ以外にもパープルとブラウンのグラデーション物があるが、童磨は前者をどうしても相手に着せたいようだった。
「そんなの分からんだろうが! 」
 ついに声を荒げてしまう猗窩座を通行人は何事かと振り返る。だがそんなものになりふり構ってなどいられる余裕など無い。ただただ己の恋人に、大切な童磨に、そんな風に心を砕かせている自分以外の人間への激しい怒りと嫉妬が猗窩座の心を占めていた。
「あ、猗窩座殿…?」
「何だお前らしくもない!! かつての図々しさはどこに行ったのだ!?」
 そんな猗窩座の大声だが真っ直ぐな、それでいて悔しげな瞳に童磨はそうか、そうだよね…と呟き、手に取っていたライトブルーとライトピンクのグラデーション二ッとカーディガンをそっと猗窩座に押し付けた。
「ん?」
 その童磨の行動に、先程まで抱いていた怒りがスッと引いていくのが分かる。何故この流れで俺にカーディガンが押し付けられるのだ?
「あ、あのね、これよかったら…あなたに贈りたい、んだけど」
「んん??」
 何を言っているのかよくわからない。すまないがもう一度言ってはくれまいか。
「もうすぐクリスマスだから…、その、俺から猗窩座殿にって…」
 かつての共有能力がまだあったのかと思うほどタイミングよく猗窩座の心の言葉を汲み取ったかのようなストレートな童磨の本心を聞いてようやく猗窩座は覚った。
「んん゛ん゛ん゛ん!!!!」
「ちょ、猗窩座殿!? 具合でも悪いの?!」
 と言うことはつまりそう言うことだと、お約束通り胸を抱えて蹲る猗窩座に人酔いしたのかと心配する童磨。ちなみに何だ何だ修羅場かと興味本位で野次馬をしていた周囲の人物も童磨の一言に同じようなことになっているが、いつもの光景なので気にしてはいなかった。
「だ、いじょうぶだ…。だが何故これを…」
 とんだ独り相撲だったと猗窩座は自分の先走り加減を反省しながら起き上がる。だが童磨の言うようにスポーティータイプとカジュアルな私服を好む己からするとあまり着ない類いのデザインだ。ユニセックスと謡っているように確かに男女共に着ることの出来るサイズではあるが、柔らかすぎるニットの素材といいパステルカラーのグラデーションの模様といいデザインといい、どちらかというと童磨にこそ似合うと思う。
「あのね、このカーディガン、何となく虹っぽいなぁって」
 そんな猗窩座の疑問に対し、童磨は引き続き種明かしをする。虹、というには色は足りていないが、言われてみれば確かに白をベースにして溶け込むように描かれているグラデーションは儚く消えかける虹を彷彿とさせる。


「俺、色んなものを見て猗窩座殿を思い出す、ようになったから…、猗窩座殿にも、離れているときでも、俺を、思い出して欲しくて…」


 続けざまに放たれた童磨の言葉に脳みそが爆発四散しなかったのは奇跡だと心から思った。だがその分脳みそは猗窩座の四肢にこの愛しくていじらしくてたまらない可愛い生き物を強く抱き締めるように指令を出す。
「っ、ああ…!  お前からのプレゼント、ありがたく受け取らせてもらうな…!」
 人目もはばからずにぎゅっとカーディガンごと童磨を抱きしめる猗窩座に、更に周囲の屍は数を増していく。
「本当!? やっぱり猗窩座殿は優しいな♪」
「どの口がそれを…っ!」
 うっかり泣き出しそうになるのをこらえるように猗窩座は童磨の胸に額を押し付ける。何故此奴はこんなにも俺のことを考えては当たり前のように幸せを与えてくれるのか? それはとどのつまり童磨も己のことを好いてくれるからに他ならないと言う結論が出るのはすぐのことで。

 ああ、本当に。
 一瞬でもコイツを疑った自分の浅はかさに涙が出そうになる。


「っ、とりあえず試着してくる…!」
尊さのあまりに積み重なる屍が増えるか否かのタイミングで童磨から離れた猗窩座がカーディガンを持ち店内へ向う。
「うん♪ あ、でも気に入らなかったらちゃんと言ってね! 猗窩座殿が欲しい物、買いに行こう!!」
そんな童磨の一言にUターンした猗窩座はたまらずに彼の唇を奪う。再び尊みの屍が増えたことに気にも留めないまま、この後の予定を打ち立てながら猗窩座は勇み足で試着室へと向かって行った。


 そして迎えたクリスマス。件のカーディガンを着た猗窩座の隣で、猗窩座がお返しにと選んだ雪の結晶が散りばめられたニットセーターを着る童磨が幸せそうに笑いながら聖夜のご馳走を頬張っていた。

 

本編には書ききれませんでしたが、このあと座殿はどまさんを疑った自分を律するために、俺を思いっきり殴ってくれと頼み込みます。当然ですがどまさんは普通に「いやいや何で!?」となります\(^0^)/
ちなみに狛恋夫婦の子供については次回のまとめでちょこっと出すつもりです。
更にクロスオーバーシリーズについてはこちらで連載してますのでよろしかったらご覧ください。

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