突然現れた上弦の参の猛攻に為すすべもなく二人の隊士の命は潰える。
何故、群れないはずの鬼が同じ鬼をかばいながら戦うのかという疑問も抱く暇もなく。
念には念を入れてとどめを刺し終わった猗窩座が、くるりと童磨の方を振り向く。
「まだ、完全には回復しないか」
「あ、…うん」
そうかと独り言ちながら、猗窩座は今しがたとどめを刺した隊士のうち、かつて保護した子供の亡骸をぽい、と童磨に投げてよこした。
「喰え」
「え」
「さっさと喰って回復しろ」
「あ、うん」
そう言いながら童磨は、伊之助の身体を抱きしめてゆっくり吸収していく。
本当は十五年前と同じように骨まで残らず食べたかったが、何せ時間がない。
もう一人の少女の亡骸はどうするべきかと考え、ちらりとそちらを見るも、何と猗窩座が彼女を吸収しているではないか。
「ねぇ」
「何だ?」
「あなたは、誰…?」
童磨の疑問も最もだった。今目の前にいる鬼は彼の知る猗窩座ではない。近づくたびに虫唾の走る表情で忌避し、話しかけても無視をし、手を上げ続けていた同僚が、今自分を守るように立ちはだかり助太刀をしたのだから。
だが、回復に専念している最中に発動していた血鬼術は本物だった。術式展開の陣は雪ではなく氷だったが、偽物がたやすく使えるものではない。
本当に彼は別の生き物になってしまったのか?
でも、だけど。
「…俺は猗窩座だ…。最もお前の知る猗窩座じゃないのかもしれないがな」
「そっか…」
そうだ、別の生き物になったとしても目の前の彼は友人である猗窩座殿に違いない。
何より一番の友人である俺が信じてあげなくてどうするんだ。
そう結論付けた童磨は回復の調節に入る。
かつて骨まで食べた手元に置いておきたいと思った母子は、己の身体の中で十五年ぶりに再会したのだろうかと考えていると、自分を哀れみ蔑んだ娘の身体を吸収し終えた猗窩座が不意に声をかけてきた。
「お前の言っていたことはあながち間違いじゃなかったな」
「え?」
先ほどから色々と考えこんでいた童磨は一瞬遅れて返事を返す。
「性悪でも、女であればそれなりに食えるということだ」
「! そうだろう、そうだろう! ようやく猗窩座殿も女の美味しさに気づいてくれたんだね!」
俺は嬉しいよ!と童磨はぽろぽろと涙をこぼす。先ほど花柱の継子の前で流した涙とは全く違う、別の意味が無意識に込められていることを本人は今はまだ気づいていなかった。
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