幸福な生活を送るその秘訣


双児宮の居住区に設えられた広々とした湯殿。その中で一際存在感を放つのは石造りの大きな湯船である。ふわふわと温かな湯気が立ち上る浴槽の中に浸かるのは、瓜二つの容姿をした双児宮の二人の守護者達だった。
「いつ見てもお前は綺麗だな」
たっぷりとお湯を張ったフラットタイプの浴槽内に腰を下ろし、少し開いた自分の足の間に片割れを座らせて、滑らかな肌を持つ身体を背後から抱きしめながら、カノンはそうささめきかける。
「…カノン、そういうことは…」
洗い上げた髪を頭頂部でまとめ上げることで表れた、平素は隠れているサガの項が薄紅色に染まっているのは何も風呂のせいだけではない。それを見越しているカノンは、いつまで経ってもこういった言葉に戸惑う双子の兄を可愛く思いながら、抱きしめる腕に力を込めていく。
「っ、」
お湯の中で密着する肌に思わずピクリと体を震わせるサガだが、カノンはそれ以上先には進まない。そもそも二人一緒に風呂に入っている理由からして無体な真似をするためではない。

聖戦が終わってから初めてやり合った派手な兄弟喧嘩…世間では痴話喧嘩と言う…を勃発させた日は、日本文化に慣れ親しんだ女神から齎された情報によれば、良い兄の日あり、同時に新嘗祭として日々の恵みに感謝を齎す日でもある。そんな二重に重なった記念日(?)に喧嘩をしてしまった双子であったが、元はと言えばどちらもお互いを労いたかったというのが根底にあるため、拗れる前に修復できた。だが、13年前のことが骨身にしみている彼らとしては、些細な諍いが拗れて、あの日々を繰り返すことを何よりも何よりも恐れている節がある。聖域で年長者の立場だったサガとその双子の弟であるカノンは、子供ではなかったが同時に大人でもなかった。それ故、兄は弟の言葉に心を頑なに閉ざし、弟は兄にかけるべき言葉と預ける心を間違えてしまったのだ。
幸いにも23日に勃発した喧嘩はお互いの三大欲求の内の一つである食欲によって救われたが、必ずしも次がそうなる保証はない。
なので双子は今度こそ互いを失わないために10のルールを設けた。これも女神経由で齎された情報だが、新嘗祭の前日は良い夫婦の日として、伴侶が互いを改めて想いその時間を大切にする日だと浸透しているという。それにあやかったカノンとサガは、60年間ずっと仲睦まじく夫婦生活を営んでいると言われる、とある国の牧師が新たな夫婦に祝福として贈っている十箇印刷して何度も読み返し、少しずつ実践しようということになったのである。
10ある内の8つの項目は心がけることは出来ても実際にその時にならなければ実践できない物であるので、必然的に毎日行えるのは「お互いに我慢強くなること」と「最低でも一日一回は伴侶に素敵な言葉をかけてあげる」ことに限られた。前者に対して言うならば、我慢強さと自虐をはき違える節があるサガに実践させるのは危険だと判断したカノンが、”お前は十分我慢強いから今のままでいい”と表面上は余裕を保っていたが、例の喧嘩を思い出し、内心冷や汗をかきながらなだめすかした経緯がある。そんな弟の言に、今まで影として不自由を強いていたお前にだけ我慢させねばならぬのか?という気持ちを思いっきり表情に出したサガだったが、こちらも先日に行った喧嘩を思い出して渋々と言った体ではあるが引き下がった。その結果、消去法で「伴侶に素敵な言葉を一日一回はかける」ことが毎日の日課となったわけであるが、口先三寸で神を誑かしたカノンにとってこの手のことは朝飯前であり、暇にあかせてはサガに素敵な言葉と言う名の口説き文句をかけるようになったのである。

「…少しは自重しろ愚弟…」
可愛げのない言葉を吐いて俯く兄の項を染めていた薄紅はすでに耳にまで達していて、この調子だと目元も赤くなっていることは容易に窺い知れる。そんな片割れの顔を見たいとカノンは思わないでもなかったが、こんなことで恥じらう兄のことだから無理に見ようとすればするほど恥ずかしさのあまり、湯の中に潜ってしまうことは目に見えている。
「良いだろう。何度だって言わせてくれ」
だから自らの腕の中に大人しく収まってくれているその存在をかき抱き、少しでも自らの気持ちを言の葉に乗せて伝えるのだと、蘇ってからカノンはそう心に決めていたし実践していた。昔、はき間違えてしまった時間の分を考えれば、一生かかっても言い尽くせそうにない、そんな想いを余すところなく全て。
「何度言ったって足りない。一日一回だけで満足なんかできるか」
ちゃぷ、と微かに水音を立てながら、紅く染まる耳に小さく口づける。欲情を煽るようなそれではなく、ただただ愛しくてたまらないこの存在へ贈る、飾り立てない純粋な気持ちを。
「…、って……のに」
「ん?」
耳たぶに触れた唇を離そうとした刹那に、不意にぼそりと呟いた片割れの声にカノンは耳を傾ける。

「…私だって、言いたいのに」

この兄は言ったのか、そして自分は言われたのか、咄嗟には判らなかった。

「…お前が先回りするから、いつも言えないではないか」
「は…?」

だが一言一句聞き逃してはいけないことであるのは確かだと、耳に全神経を集中させたのが運の尽きだった。一瞬呆気にとられてしまったが、その後、猛烈に顔が熱くなってくる。目の前にいる片割れの赤みが移ったかのように。
言葉を出せないでいるカノンの腕の拘束が少し緩む。その隙を突いたかのようにサガは身体を反転させて、弟の頬に素早く両手を宛がい、そのまま唇を奪う。
「っ、おまえ…!」
「いつも良いようにお前に転がされているからな。そのお返しだ」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、いつも自分を翻弄する弟へのささやかな意趣返しが成功したことに満足してサガは、いい加減熱さを覚えたため湯船から上がろうと腰を浮かせ掛けた、が、その寸前でカノンに腕を引かれてしまう。
「カノ…んっ」
唇を重ねられた直後、制止の言葉は聞かないとでも言うような口付けが開始される。
「ん、ぅ、んん」
ほんの少しの仕返しだったつもりが倍になって返ってくる、激しさを増していく口付けに、じわじわと新たな熱がサガの身体に灯っていく。
「っ、は」
そしてそれはカノンの身にも灯り始めてきているだろうことは、こちらをまっすぐに見据える、熱っぽく潤んだ海を介す緑の瞳が雄弁に語っている。
「…無体な真似はするつもりはなかったが、気が変わった」
低く、そしてどこか艶めいた弟の声に、サガは小さく苦笑する。
「…お手柔らかにな…」
「ああ、逆上せない程度には加減はしてやる」
それ以外は保証はできかねると耳元で囁きかけられながら、ぱしゃんと小さく飛沫を立てて、カノンはサガの身体を改めて抱き込みながら、到底言葉には出来ない熱い想いを伝えるために動き始めた。


「はっ、ん…」
湯に濡れたサガの首筋にカノンの唇が触れてそのまま吸い上げられる。ちゅぅ、と微かな音を立てて離される刹那、舌先がそっと触れ、瑞々しくも艶やかな小さな朱がそこに咲いた。
「ん、カノ…」
その間、背中に回されていたカノンの手はサガの背筋をなぞりながら下へ下へと降りていく。触れるか触れないかのギリギリの感触はサガの欲情を少しずつ高めていった。
「っあ…っ」
背中の指と同じようにカノンの舌先も首筋から肩、鎖骨へと朱華を散りばめながら降りていき、更に紅く色づき始めている胸の果実を唇で食み始める。
「んんっ、ぁっ、あ、カ、ノン…っ」
ぱしゃん、と湯が跳ねるそれとは明らかに違う音を奏でられながら吸われ、舌先で転がされては甘噛みされ、軽い振動が加えられていく。その甘やかな刺激に耐えるようにサガの両腕は無意識の内にカノンの頭をかき抱いていた。
「ん、もっとか?」
口に咥えこまれたまま喋られて、更にその刺激で背中を逸らせそうになるサガをカノンは先ほど腰に到達させていた手を更に下へと持っていく。
「あ…っ!」
双丘を軽く割り開かれて奥まった箇所にカノンの指が触れる。まだ何の潤いもなく乾いたサガの秘所は、それでも夜毎快楽を与えてくれるカノンの指の貌を覚えていて、知らずひくひくと蠢き始める。
「んんっ、ぁっ、やぁ…っ」
身じろぐたびにちゃぷちゃぷと揺れる湯、そして兄の甘い喘ぎ声が寝室よりもより反響する度、カノンの下半身もまた熱く昂ぶり始めている。
このまま、乾いていても尚自分を求める箇所に、慣らさないまま指を突き込んで兄が喜ぶイイ所だけを弄りまわしてトロトロに溶かしてしまいたい。そしてその蕩けた兄を更に堪能すべくその箇所に自分のいきり立つ熱を突き込んで今すぐ散々に啼かせてしまいたい。
だけどそれ以上に自分の施す愛撫によって感じている兄を傷つけたい訳ではない。あの箇条にもあるように、伴侶と末永く幸福な時間を送る秘訣は我慢強くなることだ。これ位の我慢ができずにどうやってこの大事な兄を満たせることができようか。
「ああっ…!?」
反対の胸の果実も同じように舐りながら、カノンは自分と同じように昂ぶり始めているサガの屹立に己のそれを押し当てた。
「カノン…?」
このまま、すぐにでも貫いてくれても構わなかったのにという想いを、春を媒介する緑の瞳に滲ませた片割れに、カノンは苦く笑う。
「確かに、一分一秒も待てない程お前が欲しいと思ったのは事実だが、何も挿入だけが全てではあるまい」
「っ…」
サガの顔が一気に赤くなる。それは今しがたまで湯船の中に浸かりながら睦みあっていた暑さではないことは明白だった。
バツが悪そうに紅くなった顔を伏せてしまった、そんなサガが愛しくて可愛くてたまらないと言わんばかりに、カノンは奥まった箇所に触れていた手を腰に戻し、更に兄の身体を自らの方へと引き寄せて密着させる。
「っ、ん…っ」
そして自分の肩に所在げなく置かれていたサガの右手を空いていた手で取り、つい今しがた触れ合わせたばかりの屹立同士を自分の掌ごと包み込ませた。
「あっ…!」
湯の中で触れ合った生々しい感覚に無意識の内に腰を引いてしまうサガをカノンは許さず、腰に回した手に力を込めて後退を阻むと、二つのそそり立った熱隗を握らせたその手ごと手淫を開始した。
「あっ、やぁ、あっ、あっ、っカ、ノ、っ」
自分の手ごと弟に自身を扱かれる度に否が応にも自慰を連想し、更に甘ったるく鳴く己の声が幾重にも反響して耳に返ってくる。そんな状況にすっかり理性をぼやかされたサガは、感じ入るままに腰を揺らめかせ始めていた。
「ふぁっ、あっ、あ、ああっあ、んっ」
残念ながら肝心の腰より下は水面に遮られてしまい、淫らなサガの姿を全て余すところなく見ることは出来ないが、それが余計にカノンの興奮を煽る。何よりも寝室よりもよく響くサガの嬌声は勿論、湯気がかっているとは言え、寝室よりも明るいこの場所の方がサガの気持ちよさそうな顔が良く見えて、ますますカノンの熱隗は強度を増した。
「あっ、あ、カノ、ン、もぅ…っ!あっ…」
「ああ、俺も…」
膝立ちになり弟の身体を跨いでいたサガの身体が、質量を増した弟自身に敏感な部分を刺激されてしまいビクビクと跳ね上がる。そんな姿態をまるで陸に上がりたての人魚のようだと、こちらも熱さに徐々に侵されていく頭の中で思いながら、カノンはだんだんとサガの手の中の欲を扱く動きを早めていく。
「あ、ああっ、あああ…っ!」
どくり、と熱い湯の中にある自らの手にサガは絶頂の体液を吐き出しその一瞬後、遅れてカノンも愛してやまない兄の手の中に熱い飛沫を吐き出していく。
荒く息を吐きながら色んな意味で逆上せかけ、ギラギラとした欲情が宿った瞳でお互い見つめ合った。
「…カノン、ここじゃ、もう嫌だ…」
それは拒絶の言葉ではなく、明確なサガからの誘い文句だった。
「ああ、俺ももうここでは足りない」
「んっ…!」
そう言いながら今度こそ快楽への期待で綻びかけている兄の蕾を撫でながら、カノンもまた二重三重の意味が込められた言葉を返す。
「待てるか?」
「っ、お前、こそ…」
息が上がっているのに減らず口を叩くサガにまた新たな愛おしさを募らせながら、カノンは兄の力の抜けかけている身体を支えて湯船から立ち上がった。


「あ、あ、ああ…っ!」
ぽたぽたと体中から水滴を滴らせながら、もつれる足を叱咤して寝室へと場所を移した双子は、互いを貪ることに没頭していた。
寝台の上にサガを転がし、自分を受け入れる箇所を慣らすという名目で、まずは望んだとおりに散々に蕩けさせた。窄まった蕾を割り拓いて、期待に硬くなった肉壁の一点を重点的に嬲れば、先ほどの比ではないほどシーツの上で跳ね上がる艶めかしい身体を押さえつけ、そこだけでたっぷりと啼かせて達かせた。そんな兄のあられもない姿を見て、これ以上にないほどに欲情の体液を先端から滴らせている自らの分身をその奥深くに埋めたカノンは、待ちわびた熱さと心地よさに酔う余裕もなく持って行かれ、既に二度、その内部に熱を吐きだしている。
「あぅ、んぁっ、あっ、あ、あ、やぁ…っ!」
うつ伏せにさせられすでに力の入らなくなったサガの腰を高く上げた体制で、カノンは兄の最奥部まで侵入し、ガンガンとその中を夢中になって掘削する。
「ひぁ、ああっ、そこ、そこぉ…っ」
際限なく前立腺で達かされた後に、無遠慮に先端で最奥の悦部を突き上げられる快感を連続で味わわされ、そして今尚襲ってくる刺激を逃そうとサガは弱弱しく頭を振る。
「は、っぁ、ぅ、」
そんな兄を唇の端を吊り上げて見下ろしたカノンは少しだけ律動を緩めると、漣のように揺れ動く、すっかりと解けてしまった高貴な海の髪をやんわりとかき分けた。
「んぁぁっ」
その中から現れた薄闇にぼんやりと浮かび上がる白い背に唇を落としただけでも過剰なほどに反応する。散々に愛撫され、溶かされ、達かされている上に、まだまだ続く激しい抽挿。それらに翻弄され、微弱な感触も過剰な刺激として受け止めて淫らに身悶える兄の中に、更にカノンは押し入った。
「かはっ、あ、あっ!ふか、あっ…」
もしもこのしなやかな背中に羽が生えているならば丁度その部分であろう位置に朱の華を散らしたカノンが、もう決して自らの元から二度と飛び立たさないという独占欲を込めてサガの上体を起こし上げる。ぐちゅり、と一際大きな音を立てながら抱き起されたサガは、弟の欲情の屹立を更に胎内の奥深くまで埋める羽目になってしまう。
「や、あっ、あ、あ、あっ、だめ、もうむりぃ…っ」
これ以上にないほど硬く熱い弟自身を胎内の奥の奥まで感じ入りどうにかなってしまいそうなのに、カノンはサガの逃げ道を完全にふさぐかのように、その腰をがっちりと固定して、改めて荒々しい抽挿を開始する。
「やだ、いや、ぁ、あっぁっ、かの、ん、もう、あぅ…」
先に出されたカノンの飛沫と内側からにじみ出てくる液体が混じり合って奏でる音は、サガにとってこれ以上にないほどの催淫剤だった。
「いいぞ、ほら」
「あああああっ!」
小刻みに腰を動かして最奥部を抉りながら、既に空になるまで出し尽くされた自身の先端に指を食い込ませるように突き立ててやると、背中を弓なりに撓らせながらサガは達していく。その際の締め付けにカノンもまた低く呻きながら、三度目の熱い飛沫をサガの最奥部へと吐きだした。
「あっ、んぁ…ぁ…」
いい加減受け止めきれない白濁が、くたりとしているサガの内部から溢れ出てじわりと結合部から零れ落ちる。そんな光景もカノンにしてみれば、淫靡でありながらそれ以上に綺麗だと思える。
「っん…っ」
もっとサガを堪能したいがこれ以上は流石に壊れてしまうと自制したカノンは、ずるりとサガの内部から自身を抜き去る。
「あ…ん、ん…」
艶めいた声を出し、今にも気を失ってしまいそうなサガを背後からしっかりと抱きとめて出来うる限りの優しい口付けを落としていく。生理的な涙で濡れそぼった目尻に、紅潮した頬に、そして散々啼き声を上げさせた唇に、一つ一つ愛しさを込めながら。
「サガ…」
吐息めいた声で名前を呼べば、擽ったそうに微笑む兄の身体を改めてぎゅっと抱きしめる。
今の状況からしてあのまま風呂場で続行すればよかったかと思うが、あの場所ではこんな風に抱き合うことは出来ないのでこれで良いのだと思うことにする。それに、おあつらえ向きに日付は変わったばかりだ。新たに湯を張った湯船の中で、今日の分の素敵な言葉を、本日一番に耳元に囁きかけてやろうと密かに決めたカノンは、くたりとしている最愛の存在である兄の身体を横抱きにして立ち上がり、再び風呂場に向かうために部屋を後にしたのだった。




計らずともこの話の続き的な物。元ネタはこちらから。
このツイートが呟かれていたのが昨年の良い風呂の日だったので、双子に安易に風呂に入らせてラブラブさせたかったのですが、如何せん日を置きすぎたせいか、エッチなこともさせたいと思い書き始めたのが運の尽きでした(・ω・)
聡明で綺麗に乱れる兄と、そんな兄を男前に攻めるスパダリノンを描写したかったのに、何というか品のない双子エロになってしまった_| ̄|○
でもそんな風に乱れる姿も、激しく自分を求める行為もお互いにしてみれば素敵で大好きなところなんですよ!ってことを伝えたかったのですが、全く持って詭弁でしかないという/(^0^)\
結局また冒頭に戻ってエンドレスループみたいな感じになったのは割と気に入っていたりしますw

素敵なお風呂素材は、pixivにて偶蹄目様からお借りしました。ありがとうございます。

(2018/01/08)



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