宿主と愚弟と我の話2
我は女神ケールを母に持つ悪霊である。取り憑いた宿主はサガ、その愚弟はカノンと名付けられて今現在聖域にて潜伏中である。
現在の我は宿主であるサガの魂の奥深くに根付きながらその精神をシンクロさせることに力を費やしている。甚だ遺憾ではあるが、この双子と共に聖域に降り立ったあの日、隣でアホ面を晒して寝ているこの愚弟に迫られ、宿主と己の貞操の危機を感じ、力を蓄えなければならない場面で力を使ったため、しばらくは”サガ”の魂に潜伏しながら回復を待つことを余儀なくされた。
しかし御母ケールは懐深い。『お兄様方が目覚めるまではまだ十数年の時間を要し、女神の降誕の気配もない。焦って聖域の者たちに不信感を持たれてもいけない。遊びにケガは付きもの。ゆっくり遊んで来なさい、フッフフフフ』とのお言葉で、改めて自身の使命を果たそうというガッツを貰った。

そんなわけで現在の我らは、前聖戦の生き残りである教皇シオンに育てられている状態なのだが、その日常は予想外、そうまさに予想外だったのだ。

「おお、また笑ったぞ、可愛いのぅ」
地上の平和を守る最後の砦である聖域を統べる教皇。いずれ現れるであろう次世代の聖闘士、そして女神を導く役目に相応しい威厳に満ちた風格に、下の者たちは常に尊敬を抱いているのだと、御母からインプットされていた。
だが目の前にいるこれは何だ。普段からかぶっている仮面を取り外した素顔は、261歳にしてはまあ若いほうなんじゃないかとは思うが、問題はそこではない。
スタミ〇ハンディ〇ムを片手に、我らが寝かされているベビーベッドを…正確にはサガとカノンを飽きることなくずっと映し続けているのだ。
そしてその傍らには困ったような表情を見せる側近の姿があった。教皇、あの、そろそろ謁見の時間ですが…とためらいがちに声を掛けられること数十回。しかしその言葉をまるっとスルーすること数十回。いい加減泣き出しそうになる側近に、敵とは言え同情を禁じ得ない。
何だこれは。もう一度我は現状を把握するために、不審に思われないようにほんの少しだけ意識を宿主の体から切り離して辺りを見回してみる。この程度ならば力を使ううちには入らないし、違和感を覚えたままでいるのは任務遂行の妨げにもなる。
ここは教皇宮の大広間ではなく、玉座の後ろにある扉から伸びる廊下端にいくつか点在する部屋の一つのようだ。神話の時代より存在した教皇宮は先の聖戦でそれなりに倒壊したと思われるが、もちろん今時点では復旧しているのは見て取れる。
しかし…だがしかし、御母からインプットされた情報によれば教皇宮の内装は荘厳さを重んじた造りのはずだったが、この部屋の内装はどう見てもそんな雰囲気からはかけ離れたものだった。
ライトグリーンとホワイトを基調としたハートマークとパールで彩られた縦柄の壁紙、おまけに窓には柔らかなレースのカーテンが備え付けられている。おまけに天井から吊るされてくるくる回るのはファンシーなベビーメリーゴーランドであり、寝かされている場所はふかふかした布団に柔らかな色合いをした木材で作られた大きめのベビーベッドである。
どこからどう見ても一般家庭の子供部屋ですありがとうございましたと言いたくなるようなベッタベタな室内で未だに側近を無視してでろでろの顔で〇ミナハン〇ィカムを回してくる教皇は、その衣装さえ他の者が見ても初孫にフィーバーする孫馬鹿爺だと思うだろう。
「ええい、狼狽えるな!謁見はいつでもできるが、この子たちと触れ合える時間は今、この時しかないのだぞ!!」
おい、大丈夫か聖域。我の目的は聖域を内側から瓦解させることではあるが、今攻め入れば容易く崩壊させられる気がするのだが。
しかし主神であるハーデス様や伯父上達が封印されている中、女神の封印から免れたとはいえ、我を放った御母の小宇宙もまた完全ではないのだ。
取り憑いた宿主が成長するごとに我の力も蓄えられていくのだから、焦らずに遊んで来なさいという御母の言葉を思い出し、先走ってはいけないと、側近と教皇のどうしようもないやり取りを耳にしながらひたすら耐えた。
しかしいつまでたっても終わりそうにない言い争いにいい加減うんざりしてきた。一歩も引かぬ孫馬鹿な教皇と仕事をさせたい側近の千日戦争突入かと思った矢先、我らの面倒を見に来た女官筆頭によりその不毛な争いは終わりを告げた。
何を馬鹿なことやってんですか教皇!さっさと仕事にお行きなさいと一括したと同時に尻を蹴り飛ばし、あんたも教皇が仕事を終えるまで見張ってるのよ!と力強い勢いで肩を張り倒す勢いでを叩いて部屋から追い出したこの女こそが最強なのではないかと思う。
そう考えると、我が御母も伯父君達を振り回していたのだろうかと考えるが、いかんせん我が生まれる気の遠くなるような過去のことだ。考えるだけ無駄に終わりそうなので、すぐさまやめる。
まったくもうとぶつぶつ言いながらも、我らに笑顔を向けながら、いつの間にか隣でぐずっている愚弟と我が器をあやしにかかる。
そういえば心なしか股間の具合が非常によろしくない。そこまで付き合ってやることはないと、一時的に意識のシンクロを外す。
まずは愚弟の下履きの交換を終えたらしい女官長は次に我が器の下履き交換にかかる。俯瞰する形で見下ろすと、我が宿主は泣き止み、ホッとした表情で女官にあぶあぶと手を伸ばしている。
ふむ、改めてこうして見てみると天使のような清らかさだ。我が審美眼に狂いはないと改めて宿主を観察していると、ふと隣から生じるやましい視線が飛び込んできた。
その視線の持ち主は言うまでもない宿主の愚弟。しかし侮ることはできない。我が忍び込もうとした際、小宇宙を超えた恐ろしい”何か”で我を弾き返した器。
この愚弟め、何をそんなに我が宿主をじろじろと見つめているのだという睨みを利かせてもどこ吹く風で、ただただ下履きを変えられている我が宿主をじっと見つめている。
どことなく、熱…というかやましさが入り混じった眼差しで宿主を見つめているのは気のせいだと思いたい。というか気に食わない。そこからビンビンに伝わってくる”おれのベイビィまじてんし”だとかいう思念、もとい邪念も同様にだ。
いいからさっさと服を着せろ女、それ以前に宿主よ、そこの愚弟の眼差しを受けてきゃっきゃきゃっきゃと喜ぶんじゃあない!!
あらあら、カノン様はお兄様が大好きなのねーというとぼけたことを抜かしながら、ようやく服を着せ終えた女官は、ミルクを作りに行くと席を立つ。
おい待て!我が宿主とこの愚弟(ケダモノ)を二人きりにするな!という悲痛な叫びはもちろん脆弱な女には届かない。
ええいくそ!
再び我は意識を宿主とシンクロさせ、どうにか女官を…この際あの孫馬鹿教皇でもいい…を呼び戻すために泣き声を上げようとした、が!
お、いーえ、てぃー、おぇおあいい、あい、ああいい、という単なる母音の羅列だが、はっきりとした意思の帯びた声を上げながら愚弟は主にのしっと乗りかかってきた。
そんな愚弟に宿主はくすぐったさにきゃっきゃと声を上げたが、あろうことかこの愚物は、まいえんえう、という甘ったるい声を上げて渾身の力でもって宿主の身体を押さえつけ、唇を重ね合わせながら、衣服の襟元に手をかけてくるではないか!
んぎゃーーーーー!!!と思いっきり叫んでしまったが幸か不幸か、誰にも我の声は聞こえない。シンクロをしていない限り、我は一個体であり、当然身体の共有はできないためこの愚弟の愚行をから齎される不快感を幸いながら感じてはいない。しかし俯瞰して見下ろしている形ではあるので、今現在、まさに悪夢のような光景が広がっている。
片やべたべたと自分の兄の頬や唇を涎まみれの唇で触れながら、明らかな意図をもって衣服を脱がしにかかろうとする愚弟。片や愚弟の行動にさしたる疑問も持たず、キャッキャキャッキャと喜ぶ宿主。
ふざけるなこの愚物!こやつは我が見定めたモノだ!お前が好き勝手していい相手ではない!というかお前はもう少し危機感を持て宿主!!
切り離していた意識を再び宿主の身体の隅々まで繋げていく。力を蓄えるどころか逆に消耗していくこの現状を憂いている場合ではない。これ以上我が神聖なる器を好き放題させてなるものかという渾身の気力で持って、のしかかってくる愚弟の身体を叩き落した。
前回と違って今回は、柔らかな寝台の上に叩き落としたため、さしたるダメージは与えられていない。しかし、今まさに据え膳を食す寸前だった愚弟にとっては効果は抜群だったようで、同じ顔ながらも大層なマヌケ面を引っ提げてぽかんとしているのが見て取れた。
しかしここで油断をしてはならない。がっと髪を掴んでさらに顔を上げさせ、二度と邪な考えを持たないように、渾身の眼力を持ってこの愚か者を睨みつけながら、黄金の矢にも勝るとも劣らない釘を刺してやることにする。
”この愚物が!!我の目の赤いうちは貴様にサガを思い通りになどさせんぞ!!!”
我が器の声帯を借りて出てきた声も言葉もいまいち迫力には欠けていたが、目の前の愚弟のは恐ろしいものを目の当たりにしたと言わんばかりに青ざめ、次の瞬間にはつんざくような泣き声を上げた。
まるで超音波のようなそれに釣られるようにしてサガもまた泣きじゃくる。
その泣き声に、光速の勢いで駆け込んできた教皇と、仕事をほったらかされると危惧して追いかけてきた側近が再びひと悶着を始めたところで、ミルクを持って慌てて駆け込んできた女官長が同じくもう一度この二人のケツを蹴り飛ばして追い出すのを見届けた我は、これでしばらくは我が器の貞操は守られと安堵し、再びサガの意識の奥深くに沈んでいった。

しかし、生まれた時からアレな愚弟がこの程度で引き下がるはず等なく、ここから数年の間に”お、いーえ、てぃー(OAMT/俺の兄貴マジ天使)”を信条とし、めげずに我が器にちょっかいをかけてくるガッツ(執念)に振りまわれることになる。さらに15年後、反省を促すという名のエグいシステムの水牢に放り込まれても、毎日毎晩サガへと届く呪詛めいたラブコールもどきの小宇宙をいちいち遮断しなければならず、改めてその執念深さ(ガッツ)に疲弊する羽目になろうことなど、知る由もなかった。



originの後編が発売される前に、どうにかして完成させたかったのですが間に合わず\(^0^)/
前回の前編の設定を引き継いだ、対愚弟専用ツンデレ仕様セコムな妖星さんな内容でお送りしました。その妖星さんに名前が付いたとのことでかなり動揺していますが、カノン=愚弟、天使=天使、という意味合いも兼ねて妖星さん=キツネザル(仮称)でもいいかと自分では思います\(^0^)/
ネタバレはともかく内容はまだ読んではいないので、まだorigin前半を読んでの萌えを引きづっているのねwという事で温かく見守ってくれると嬉しいです<(__)>
そしてもう一つ、私のフォロワーさんの妄想があまりにも可愛すぎて、カノン=生まれた時からGTMGTかつOAMTガチ勢という私の考えがさらに刺激されたといういきさつもあります\(^0^)/
妖星さんがサガを器に選んだのは、この話ではカノンのOAMT愛があまりにもアレだという、消去法という部分が大きいのですが、それでもしっくり自分になじむしある程度の愛着はあると思うのです。
その愛着しているものが、自分を拒んだ得体のしれない”何か(OAMT愛)”を持っている者に迫られる(しかも赤子)というのは相当のっぴきならない状況なのではないかと思うのですが、どうでしょうか?(*゜∀゜)
そして何気にちょい役ですがシオン様が初描きな件/(^0^)\ 初孫フィーバーのごとくなシオン様は、ある意味実体験をちょこっと混ぜていたりなんかしますwww
そして小宇宙とは要はガッツですというのをさりげなく推す。更にOAMTはもはやさりげなさすら装わず、堂々とステマしています\(^0^)/

(2019/01/22)

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