礼のつもりか服従か前提 「あなたに図らずも必殺技を授けてもらうことになったのですから、お礼をした方がいいですか?」 貴方の言う”絆”の印に足の甲にでも、と目だけは笑っていないグリフォンを、迦楼羅は鼻で笑う。 「誰がそんなもんお前に求めていると言った?」 言うが早いがアイアコスの手がミーノスの首に伸ばされる。いきなり襲いかかってきたときと比べれば若干の手加減はされているとは言え、思いきり掴みあげられるその力は並の物ではない。 「それを与えるのはこちらの方だろう?」 獲物にとどめを刺す獰猛な獣のように俊敏な動きで引き寄せられ、次の瞬間には白い喉をさらしあげて唇が落とされる。 「っ!」 喉に歯を立てられたミーノスは、思わず食われると錯覚して息を飲む。そしてその唇は、さらりと落ちる白銀の髪をかき分けて首筋へと侵入した。 「こ、のっ」 唇を落とされいたずらに吸い上げられ、ついでに舌先でなぞられ思わず体が跳ねあがる。 コズミックマリオネーションをかけようにも素早い動きで避けられて、ミーノスは顔を真っ赤にしながら乱された襟元を掻き合わせる。 「~~絶対に借りは返すからな!」 「はは!やってみろよ可愛い可愛い鷲獅子!」 翻弄されていることに慣れていないグリフォンの叫びを聞き届け、神鷲はおかしげに笑う。思いの外初心で、可愛らしいところがあることが判った天貴星はもはやアイアコスにとって単なる同僚という存在ではなくなっていた。 (今度は、その冥衣の下の白い胸にでも牙を突き立てやろうか) そうすればグリフォンはいったいどんな反応を見せてくれるのだろうか。そんなことを考えながらアイアコスはミーノスの追撃から身をかわし続けるのだった。 (LCアイミー)(隷属・欲求・執着・所有) 白い腕に咲く華は グリフォンの冥衣は冥界三巨頭の中でも防御力が非常に優れている。 今生に天貴星が選んだ白い佳人の体をアンダーウェアすら見せず隙間なく覆いつくし、腰から外に跳ね上がるような作りの冥衣は、纏う人の美貌も相まって禁欲的なイメージを抱かせる。 そんな冥衣から唯一僅かに覗けるのは腕の部分。周りを黒衣に包まれて僅かに外気に晒せる白い腕。その部分に冥衣を纏う前の滑らかな素肌にラダマンティスはキスを落とした。 「…っ、相変わらず不器用なキスですね」 「うるさい」 強く、きつく吸い上げられる微かな痛みとくすぐったさを覚えてミーノスは笑う。 例えば主神とその側近が住まうエリシオンへ行くとき、聖域への視察へ出向くとき、ラダマンティスから一日以上ミーノスが離れる際、決まって彼はその白い腕に鮮やかな朱を散らすことを望む。 腕にキスを落とすその前日は、がっちりとした冥衣に覆われることになる部分に跡を残させないこと。それを条件にミーノスは目に見えるこの腕に朱を散らすことを許した。身体中に痕跡を付けられて、尚且つ目に見える部分にまでというのはどことなく悔しいからだ。 しかし唯一外気に晒せるこの腕にだけ憎からず想う相手の刻印があるというのは、やはり特別で嬉しく思う。 生きて帰るのは勿論、例え死んだとしても身体が消滅しない限り、ラダマンティスのキスに込められた想いを最期まで感じていられるのは、紛れもない幸福なのだから。 「…じゃあ、行ってきます」 「ああ」 腕にキスを落とされた日は、ミーノスもまたラダマンティスの耳以外にはキスはしない。そう取り決めてから久しいのに、ミーノスはラダマンティスの恋慕を、ラダマンティスはミーノスの誘惑に、今も尚色褪せない昂ぶりを覚え続けていた。 (ラダミー)(恋慕・誘惑) とあるコピペのラダミー トロメアのミーノスの部屋。床に正座させられているラダマンティス。 珈琲を飲みながらニコリと笑うミーノス。 「この私を差し置いてカノンを追い掛け回した挙句、心中で私より先に死ぬなんて、どういう了見かお聞きしても?」 「いや、その……すまん」 「謝って済めば私たちの存在はいりませんよ。…ああ、でも…キスしてくれたら許して差し上げます」 「!ミ、ミーノス…!」 「ほら、早くしてください」 「…で、では…」 「…ん?えっ!?ちょっと…!」 椅子に腰かけているミーノスの前に跪き、冥衣に包まれた足先を持ち上げ何のためらいもなく足の甲に、ラダマンティスは何のためらいもなく口づける。 「な、な、」 地面に這いつくばらせて床にキスを差せ、先に死んだことへのお灸をすえるつもりだったミーノスだが、自発的に足先を取り、あまつさえそこに唇を落としたラダマンティスに混乱を隠せずにいる。 「俺は確かに直情的な男だ。しかしな、ミーノス。俺がお前のものであることはずっと変わりはない」 下から見上げるその目線はいっそ清々しいほど真っ直ぐで逃れられない。どんどん顔に熱が集まるのが判る。 つまり、この男は自分がキスをしろと言った際に狼狽えたのは、キスするだけで許してもらえるのかという感情ではなく、自分が本当にラダマンティスを捕えているのかどうか不安に駆られての世にも珍しい”おねだり”だと捉えたのだ。 「あ、あ…あなたって人は…!」 「今更、という気もあるが、お前が望むならいくらでも証明する。…お前は俺のもの゛っ!?」 「それ以上は良いです!」 まだ足りないのかと言わんばかりの表情でもう一度足の甲に口づけられそうになり、思いきり足先を蹴り上げたミーノスの渾身の一撃が、ラダマンティスの顎先にヒットする。 その拍子にひっくりかえってしまったラダマンティスを放置し、パタパタと法衣の裾を翻して退出するミーノス。コキュートスの風に当たり、その余韻を覚ますためにしばしの時間を要したという。 (ラダミーその2)(隷属) 今度こそ長生きしてよ 「じゃあ、行ってくる」 「ええ、お気をつけて」 ちゅっ、と軽く音をたてられてついばまれる感触をアイアコスは黙って受け止める。聖戦が終わって復活してからというもの、ミーノスは二人で過ごした翌日に、ほぼ毎回キスを送るようになった。 その理由を何時もキスを受け止めた後に聞こうとするアイアコスだが、唇を離した後のミーノスの表情が何とも言えず艶っぽく、それでいてどこか不安を滲ませて見上げてくるから今日も何も言えずに目的地へと向かう。 その後ろ姿を何とも言えない切なげな眼で見送りながら、ミーノスは、ふと、今しがた触れたアイアコスの唇の熱を、感触を確かめるように指先でなぞりあげた。 「…まだ、ですよ」 震える白銀のまつ毛に覆われた金色の夕陽の瞳がそっと伏せられる。思い返すのは、目の前で、死した彼を起こそうと、何度も冷たく青ざめた唇に口づけた記憶。 「まだ私は安心なんかしてませんから」 黒水晶の瞳が何故を訴えているのは気づいている。だけどまだ言えない、今度こそは自分より先に死なないで欲しいから、長く生きてほしいからキスを送っているなどと。 そう口にすれば奔放な神鷲は約束はしてくれるだろう。だけど戦場になれば、真っ先に飛んで行って先陣を切り、戦いを楽しむ性質であることも知っている。 止められるわけがない。だけどもう自分より先に死んでほしくもない。約束だけじゃ心伴いから、祈りにも似たまじないごとを施すしかない。その弱さを知られたくない。 「…安心できるまで、言ってなんかあげませんから」 コキュートスの寒波が寂しさに沈むミーノスの体を苛んでいく。早く、彼を失った痛手を癒さなければと思えば思うほど、未だ、ミーノスの中に根付く喪失の痛みはその強さを増していった。 (アイミー)(愛情)
2017年キスの日に挙げた四つのキスの日の話です。
ミ様の冥衣のチラリズムは本気で反則だという思いから書いてましたが、これ、腕じゃなくて脇じゃね?と正気に戻りかけましたが、今も尚正気に戻る勇気はないようです。
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