囲女~婀娜ざくろ~ 其の参


縫い閉じた心は、己を欺く為――。
しかし、少しずつほつれた糸口から溢れ出る想いは、何時しか哀しみと僅かな憎しみへと形を変えていた――。


囲 女~婀 娜 ざ く ろ~

-其の参-


「あっ・・・!」
外出から僅かな時間が経過した後、自室へと引き上げてきたバドは、やはり行きと同様に後ろを着いてきた、シドの腕を乱暴に掴んで、敷きっぱなしの敷布の上にその身体を放り投げた。
「ほら?何でもするんだろう??」
そう言いながら、バドはシドの柔らかい髪の毛を掴みあげて膝立ちにさせるよう起こし上げ、躊躇いが浮ぶその顔の前に、己の猛り始めている欲望を突きつけた。
「はっ・・・ッん・・、む・・・ぅ・・・っ」
涙目でしばし兄を見上げていたシドだったが、観念したのか、達したばかりの身体のせいで理性が奪われていたのか、やがて差し出された兄自身を手で支えながら、ゆっくりとその口の中に銜え込んだ。
しかし未だ日は高く、商売時ではないため、階下で聞こえてくる女郎達の相変わらずの華やかなざわめきと、通りからの賑わいに気を取られてか、思うように奉仕が進まない。
「下手くそが・・・。」
舌打ち交じりの声が降ってきたのと同時、口内からソレが引き抜かれると、バドはしゃがみ込んでシドと目線を合わせる。
日の高い内から睦み合うことへの恥じらいからか、慌ててその視線から逃れようと顔を背けようとするシドの顎先をその手で捕らえながら、バドはにやりと笑いながら言った。
「俺が教えてやるよ。」

「んっ・・・、んぁッ・・・ぁんんっ・・・!」
淫らに絡み合う、美しい獣達。
兄の顔の上に秘所を向け、四つん這いになり、喉の奥を抉るように起立したソレを銜え込んでいるシドの双丘を、バドの両手が添えられてぐ・・・と開かされる。
下から己の恥所全てが丸見えになっている恥かしさに、白い身体を更に紅く染めながら、シドはそれでも懸命に奉仕を続けていた。
「っ・・・、良い子だ・・・。」
そう言うとバドは、先ほどの余韻にひくつく弟のソコに、自分の舌先を差し出して這わせ、軽く舐めあげた。
「んんぅ・・・ッ!」
熱い吐息と共に、ぐちゅ・・・と言う濡れた音をたてながら、内部へ押し入ってくる柔らかい異物の侵入に、シドは兄のモノから口を離し、身を震わせて喘ぐ。
「んぁ・・、あ・・ッあぁっ・・・!」
もう入りきらないところまで挿れられた舌が、同じ様に熱いシドの内壁を丁寧に濡らしていくために動き始める。
「あぁっ!やぁあ・・・っ!」
ひどく耳に伝わる淫れた音と、柔らかい舌先で細道を押し広げられていく感覚に、シド自身もまた、段々と勃ち上がっていく。
しかしバドの手が、先ほどと同様にその根元を戒めると、双丘にあった片手が自分自身を銜え込ませる様に、シドの頭を押さえつけた。
「んぐぅ・・・っ」
「誰が休んでいいと言った?続けろよ、早く。」

シドが再び自身を銜え込んだ事を確認してから、バドは今度は舌の代わりに指を三本ソコに宛がった。
「んんー・・・っ!」
充分すぎるほど慣らされたソコは、あっさりとバドの指を受け入れた。
半回転させながら、最奥に突き入れては、シドの内壁の敏感な箇所を探り当て嬲り上げる。
いやらしく内部を這い回る指に理性を奪われながら、シドの方も、必死に兄のソレを愛撫する。
「っ・・・!」
涙と汗にまみれ、たどたどしくも手で茎を支えながら、先端に舌を絡めて快楽を提供していく弟。
じわじわと、心の奥底に封じ込めた想いが頭をもたげてくる。
しかし同時に、そんな彼を叩き壊してやりたいという相反する心も湧き上がって来る。
交錯する感情の元、刺激を与えていた指を引き抜いて、間髪いれずに枕元に置いてあった、先ほど弟の内部を犯していた玩具を手に取り、再び最奥へと突き入れていく。
「・・・?!っ、ぁぁああーーっ!」
くぐもった、悲鳴とも取れる喘ぎには耳も立てずに、シド自身を戒めていた手を双丘に戻し、深々と其を銜え込んでこれ以上無いほど広がっている秘所を更に押し広げた。
「や・・・、やだぁ・・・っあぁ・・・っ!!」
「こんなに銜え込んでやがる・・・。」
くくっと無情に笑うバドに、シドはこれ以上無い仕打ちに耐えかねて、咽び泣きながら懇願する。
しかしバドはそんな弟の訴えなど無視して、其の根元に設置されているスイッチに指を滑らせて、ためらい無くかちりと入れた。
「やあっ・・・!あぁああぁぁ・・・っ!」
金属で出来ている茎の部分から先端にかけて大振りに動き回り、内部が破けるかのごとくかき回されているシドは、シーツを握り締めて大きく身体を突っ張らせた。
そして、スイッチを入れた手はそのまま、激しく動き回る其の出し入れを開始する。
「やぁ・・・、あぐっ・・・、あぅっ・・・!」
再びバドの手が、外れていた自身を口に戻すようにシドの頭に置かれる。
「相手が誰であろうと、気持ち良けりゃそれでいいんだろう?なぁ?」
電子的な小刻む音を発しながら、内部を抉る其を更に奥深くに突き刺しながら、バドは問う。 だが、そんな屈辱的な言葉も、今のシドの身体には欲情を煽る刺激として吸収されていく。
ただ、迫り来る快楽の波に、兄と同時に達する為に、シドは我を忘れてバド自身を貪っていく。
その奉仕に中てられてか、バドもまた、抑え切れない熱を同時に吐き出そうと、玩具を一際奥に突き刺しながら、先端から先走りの雫を滴らすシド自身を握り締め、激しく扱いてやる。
「ぅ・・・っぁ・・・ぁあぁああぁっ!!」
「くぅ・・・っ!」
後ろに埋め込まれた其と、前への兄からの刺激により、シドは兄の手の中から胸へ、バドは弟の口内へと、それぞれ欲望を吐き散らした――。


「あぁ・・・あぁあ・・・っ!」
「ほら・・まだ終わってねぇんだよ・・・!」
二度目の絶頂を吐き出して、バドの身体の上でぐったりとするシドを引き下ろして、無理矢理に仰向けにさせると、内部を蹂躙していた玩具を引き抜いて、まだ熱くそそり立つ自分自身を今度は犯入させていく。
「あ・・ぁあ・・・あ、にう・・ぁあっ!」
充分に解されて何度も犯された肉壁は、それでも一番に求め望んで止まない、一気に突き込まれて行く兄自身を否定する理由など何一つ無く、難なく根元まで迎え入れていた。
「うああっ、あ・・ぁあぁっ!」
しかしどんなに手酷くされていても、心はずっと奥底に封印して身体だけでも良いから結ばれていると錯覚する程の熱い存在を感じ取る暇すら与えないかのように、バドは弟の腰をぐぐっと引き寄せてそのまま力任せに体勢を入れ替えるようにしてシドの身体を自らの上に乗せる。
「あーっ・・・!」
その瞬間、自らの重みで、奥まで入っていた兄自身が、更に奥の奥を貫く肉の衝動にシドはバドの上で身体を仰け反らせて悲鳴にも似た婀娜声をあげる。
「ああぁっ・・・!あぅっ・・ん、は・・・っ」
呼吸もままならず、肩で荒く息を吸っては吐いている弟のその嬌態をバドは下から舐めるように見上げながら、大きく筋張る両手でシドの細い腰に手を添えると、その内部に入り込み締め付けている自身を軸にして、その白い裸体を揺らし始めた。
「あうっ・・!あぁああっ、やぁぁっ・・・!」
ずっぽりと根元まで入り込んでいる兄を、自分がその身体の上に居る為にその衝撃から逃げる事もできずに、シドは下から襲い掛かってくる兄の動きに苦痛とも歓喜ともどっちにも取れる喘ぎを唇から漏らすだけだった。
「ほら・・俺の上で・・・達って、みろよ・・・?」
下からその白い裸体を支配して服従させながらも、自らもまたその魔性に溺れながら、上下に腰をグラインドさせながら、シドの身体を傀儡人形の様に激しく揺さ振っていた片手を、もう欲望の忠実なる奴隷と化している弟自身に持って行きその根元を掴みあげる。
「いやぁ・・・あ、ぁあぁ・・・っ!」
「いや、じゃねぇだろうが・・・?ん?」
ゆさゆさと自分の内壁と兄の精がぐちゅ、ぐちゅぐちゅと交わる水音を奏でながら、肉と肉とがぶつかり合う音が部屋いっぱいに木魂するのを否応無く耳にして、羞恥に顔を染めながら頭を振るシドの白い手が、一方では生み出されている快楽に耐えるべく自らの身体を支えようとしてバドの腰に付いているものの、じっとりと自身に絡み付いてくる兄の手をどうにかして除けようと片手でそれを阻んでいたが、それは徒労に終わった。
「やぁ・・や、ぁあっ!」
バドの筋張った無骨な掌が、シドのたおやかな白い掌を捕らえ、その手ごと自身に宛がって上下に荒々しく扱いてやると、悲鳴にも似た声を上げながら仰け反っていく、弟の肉壁は兄自身をびくびくと焼付くかのごとく痙攣しながら締め付けていく。
「おねが・・もぅ、・・ああっ!・・ゆ、るし・・あぁあっ」
もはや回避不可能なほど、前後に齎されていく兄の執拗なほどの責め苦。
片手で相変わらずシドの身体を揺さ振って、もう片手でシド自身を攻め上げながらも、その中に情欲と征服の証をたっぷりと注ぎ込む為に自らもまたその締め付けに膨張しつつある自身を更に奥の奥までぐりぐりと捻じ込んで突き刺していく。
「やぁ・・、やぁぁっあぁっ、だ・・めぇっ・・・あああっ!」
兄の上で演じてしまったあまりの痴態に、シドは大きく弓なりに身体を仰け反りながらその潤んだ瞳からは新たに雫を滴らせ、バドの手の中と己の手の中に在る精から熱い白濁を迸らせ、そしてバドもまた低く呻いて、その白い肉体の内部に今だけは自分の物であるという所有の証の如く己の欲望をたっぷりと注ぎ込んで達った――。


「・・・・・。」
行為後、しばらく敷きっぱなしの敷布の上でぐったりとしていたシドだったが、やがて今晩の為、身支度を整える為に無言のまま部屋を出て行くと、そこにはただ、やりきれない想いを抱えたバド一人だけが残った。
「クソっ!」
先ほどまで弟が横たわっていた布の上に手を伸ばしてみても、そこはただ僅かな温もりが残る、細波だった布があるだけだった。
「こんな事でしか、俺はお前を独占できないんだ・・・。」
自嘲気味に呟いても、その声は誰に届く訳でもない。
勿論シド本人にも・・・。

今宵もまた、シドは幾人もの男と情を交わすだろう。
そしてその後、また何食わぬ顔をして自分のも後へとやって来るだろう。

ただそれだけなのだ。
俺とシドの関係など。
“主”と“女郎”の関係としての、束の間の時間の勤めを果たすだけの――。

兄弟だなどと、今となっては空しいだけ――・・・。



いつの間にか、空は朱色に染まり、大通りを道行く人々は足早へと帰路へと着き、子供達も母親の待つ家へと戻っていく。

しかしこの界隈はこれからが目覚めの時間だった。

そしてまた――。

今夜も彼らにとっての終わり無き、絶望の噛みあわない歯車が回りだす。


狂々・・・、狂狂と――・・・。




続く



戻ります。