囲女~婀娜ざくろ~ 其の七-



囲 女~婀 娜 ざ く ろ~

-其 の 七-



「な・・・っ!?」
肩を掴まれ、僅かに距離を挟んだ先に見える兄の顔は、ひび割れるのではないかと言うほど強張り、固まっている姿が瞳に映っている。
私に否定して欲しいということは、容易に見て取れた。
肩に置かれた手が、力強くありながらも小刻みに震えだしているのを感じながらも、それでも私は・・・。

ここで否定してしまえば、まだ普通の兄弟に戻れるのかも知れない。
だけども、そうなってしまってから、この先続く道は一体何なのだろうか?
既に自分の気持ちに気づいてしまい、それが不可能である事でしかないのを知ってしまったのだ。
あの男と事に及んだのは、半分は兄の為であるが、もう半分は自分以外の者を不可抗力とはいえ抱いていた兄へ対しての当てこすりだと言うこともまた事実であって。
どのみち、汚れてしまった身体と気づいてしまった想いでは、元に戻れるはずは無いのだと。

それならば・・・。
それならば彼が主となったこの生家で、男達に弄ばれて堕とされていく様を見せ付けてやろうと・・・。

「私が望んだことなのです・・・・。」

肩に置かれた手をやんわりと払いのけようと身を捩ったシドは、抑揚の無い声で、だがもう一度きっぱりと兄の瞳を真っ直ぐに捕らえながら言い切ったのだった。


その言葉が耳に届いた瞬間、バドの頭の中で何かがぷつり・・・と弾け飛んだ音がした。
と、同時、自分の手を払いのけて背を向けた弟の腕を再度強く掴み上げる。
「なに・・・っ!?」
先程よりも更に強い力で捕まえられたシドは、痛みに声を上げたが、バドはそれを聞かず今度は彼を自分の部屋へと連れ込む為に引っ張っていった。

「やっ・・・!」
ドサ・・・っと暗い室内の床の上に、乱暴に弟の身体を投げ出すと、覆いかぶさるように押し倒し、片手でシドの両目を塞いだ。
「や・・・っん・・!?」
突如視界の光が遮られたことによって、何事かと身を竦ませて声をあげようとするシドの唇を、とっさに己の唇で覆う。
「ふ・・・っ、んぅ・・・っ!」
噛み付くかのように荒々しく、抵抗もせずになすがままの弟の口内を、差し込む舌で、くちゅ・・・ぴちゃ・・・と音を立てて蹂躙していく。
先ほど、彼を支配したあの男の味も気配も全て消去していくかのように・・・。

きっぱりと自らが望むことだと言い切った、シドの弁を鵜呑みにしたわけではなかった。
だけども彼の本心が何処にあるのかが判らないのだ。
それが判らないゆえ、せめて否定して欲しかった。
だが、シドははっきりと自らの非を認めてしまった。

大事な弟が、汚されてしまった事よりも、愛しく想う者が自分以外の者に抱かれ、そして自らその道に進んでいこうとする事。
その事がどうしようもなく悲しくて、そして赦せなかった。

気が付くとバドは、シドの唇の端に歯を立てて思い切り噛み付いていた。
「痛っ!?」
その悲鳴に耳を立てず、ギリギリと噛み付ける力を増しながら、理性ギリギリの交渉を打ち砕かれたバドは、シドの両目を覆う物を、己の手から幅のある白い布へと変えて、きっちりと後頭部とこめかみの真ん中辺りで結び上げる。
「やぁっ・・・、何を・・・っ!」
口付けを解くと、ツー・・・っと、赤い色の混じった、か細い唾液の線が互いを繋いで消えていく中、シドは端を傷つけられ、自由になったその唇で抗議の声をあげて、固く結わえられた結び目を解こうとする。
だが、バドの手がシドの両手を捉えて手首の辺りで拘束して頭上で一つに纏め上げる方が早かった。
「!?」
暗くふさがれた視界の中、器用に片手で衣服を剥ぎ取られ、肌がひやりとした夜の外気に晒されていく。
「や・・やめ・・・、ぐっ・・・!」
「やめて、じゃないだろう?」
制止と拒絶の言葉は、空いている片手できつく顎を押さえつけれることによって止められた。
目が頼れない分、知らず神経がより強く集中し始めた聴覚が、バドの非情なまでに低く呟く声を捉え、シドの身体にゾクリとした震えを走らせる事となった。
「お前が言ったのだろう?」
押さえつけて、見下ろす弟は、暗い室内に微かに入り込む月光によって照らされて、晒されたきめ細やかな肌は仄青白く染まり始めている。
「この道へ進むのだと。」
同じ姿形の兄弟のはずなのに、しなやかな白い身体も絹糸の様な髪も、何もかもが自分と違って見えて・・・。
「ならばもう、俺とお前はたった今から兄弟などではない。」
そして欲しくて堪らない物。
一番大好きな、穢れのない無垢な夕日色の瞳を塞いだ理由は、こんな形でしか彼を手に入れることの出来ない自分の醜さや情けなさを見せたくないから。
「主と奴隷の関係だ。」
声が震えださないように堪えながら、身を固くする弟に対し、バドは低く宣誓したのだった。


「ッ・・・ひぃ・・・っ!」
固い床に押付けられた身体を無理矢理起こし上げられて、この部屋にある木の柱に両手を回した形で手首を拘束されて、腰を突き出す体勢を取らせられている。
見ることも、ましてや自由な動きすらも封じ込められたシドの身体は、バドの指や唇から施される性技に順応に反応を示し、成すがままへとなっていく。
既に一度、立ったままで触れられて達かされたシド自身から零れ落ちた蜜は柱へ飛び散っていたが、僅かな残骸が彼の太ももを伝っている。
その余韻に浸る暇も無いままに、ドロリとしたその液を兄の指が掬い上げ、きつく閉ざされたソコに塗りたくられる。
「あ・・・っ、ぐぅ・・・っ!」
そのまま道を広げられる為に押し広げられる指の挿入に、内臓が圧迫される苦しさを齎されて、シドはくぐもった声を上げながら、閉じた視界でも尚、兄の顔を見ようと おずおずと後ろを振り返る。
だがバドは、懇願にも似たシドの布越しの視線を無視して、食いちぎられるほどにキツイ入り口の更に奥へと、肉壁を引っ掻くようにしながら無遠慮に指をねじ込んで行く。
「いっ、や・・・あ、あぁー・・・」
「ほら・・・、どこが良いんだ?」
弟の耳元に顔を近づけて息を吹きかけるようにして囁きかけた後、濡れた舌先を窄めて、その中をも犯すために侵入させていく。
「んぁっ・・・」
それから逃れようと、顔を伏せようとするものの、腰に添えられていた手が不意に外れて、胸元を赤く飾る突起をぎり・・・ッと摘み上げられる。
「ひっ・・・!」
「答えろよ。」
ちゅるり・・・と舌を引き抜かれて、胸の突起を指先で弾かれたり捏ね繰り回されたりしながら、うなじから背中へかけて朱刻を落とされながら舌先でなぞられて行く。
その間にも、バドの指はシドの敏感な部分を探り当てる為に、絶え間なく動き続ける。
「あん・・っ!?」
不意にびくんっ・・・とシドの身体が跳ね上がったのを目ざとく認めたバドは、その部分を思う様、指先で擦りあげて攻め立ててやる。
「あっ・・・、あぁ・・・ッ。」
「ここか・・?」
暗闇の世界の中、伸びてくるバドの手が指が、自分の身体を暴き立てていく未知なる感覚に、シドは我を忘れてこくこくと頭を縦に振る。
その様を見届けたバドは、指を引き抜き更に腰を引き寄せて、まだ充分に開ききっていない弟のソコへと熱くたぎり始めた欲望の切っ先を宛がった。
「え・・・?な、に・・・?」
怯えて身を震わすシドの双丘に両手を添えて、ぐ・・っと開かせ、ゆっくりと貫通を開始していく。
「い・・・っ、ひ・・・、やぁあー・・・っ!」
ぶちぶち・・・っと、内部の肉の一部を引きちぎるような感触を感じた。
激痛に上げたシドの悲鳴が、張り詰めた闇の中を切り裂いていく。
「は・・・、ぁっ・・・、あ・・・。」
額を柱に押付けて、布の下にある瞳から涙を零しながら合わない呼吸のまま喘ぐシドに、バドは歪んだ征服感とこんな風にしか奪えなかった己への遣る瀬無さに満たされていく。
未だ先端しか挿れていない自身を、弟の狭く熱い内部全てに収める為に、バドはシドの片足を抱え上げて持ち上げて、自らの肩へ引っ掛ける。
打ち込まれた自身を伝っていく、裂けた部位から滴り落ちる赤い血が痛々しい。
「やだ・・・っ、やぁっ・・・、ぁあっ!」
突如感じた浮遊感で、どれだけ自分が淫らな姿で兄を受け入れているのかを悟ったシドは、必死に抵抗を試みるものの、ぎっちりと縛り上げられた縄が手首に食い込むだけであり、更には前の方に伸ばされた手が、ぬるりと粟立つ自身を捕らえて荒々しく上下に扱かれることによって、 それは無意味なものに終わった。
「ひ・・・ぃ・・っ、ぁああ・・・っ!」
そして後ろからあぶられるジクジクとした痛みが、徐々に悦びへと変化していく過程。
自身を弄くる事によってシドの力を抜かせ、最奥への犯入に成功したバドは、今度は己自身の先端でシドの感じる部位を突き始めた。
「あ・・ぁぁあ・・・、ぁんっ!」
勢い良く腰を押し進められて、自身をも弄られながら、シドは段々と追い詰められていく。
ぐちゃぐちゃと言う淫らな水音を部屋中に木霊させながら、二人の身体は段々と登り詰めていく。
「ほら・・・、達っちまえよ・・・っ!」
がくがくと、人形の様に身体を揺さ振られ、兄の手によって自身から白濁を迸らせ、びくびくと身体中を痙攣させるようにシドは一際高い嬌声を上げて達した。
そしてバドも、その弟の内部へ、支配するかのように欲情の証をたっぷりと注ぎ入れたのだった――。



この日、二人はこうして一線を越えて行った――。
遠い幼い頃から二人の気持ちは何も変わってはいないのに、近すぎた故に捻じ曲がった互いへの想い――。

その日以来、夢にまで見たシドの、愛する兄と交わす行為は、只の事務的な儀式となり。
バドもまた、弟の心を手に入れられない分、身体だけの繋がりで埋め合わせようと、毎夜、他の男へと抱かれた彼を、禊ぎの意味でその中に入り――。


長すぎる絶望の初夜が齎した、深すぎる亀裂。
その中に、あの日に立てた白い花の草原での誓いも黒く塗りつぶし、飲み込まれて行ったのだった――・・・。




続く



戻りますか?