奇子~其の参~
“彼”―バド―がシドの存在を知ってから一年後のある日――。
いつもなら誰も来ないはずの午後の時間、不意に重い音をたてて扉が開かれた。
どうせいつものように、素通りする顔を見知った人間が、何か忘れ物でもしたのだろうと大して興味も持たずにそちらを振り返る。
だが、そこに立っていたのはいかにも高貴な育ちの雰囲気の同じくらいの年頃の少年だった。
初めて見る人間に、思わず身構える。
だが、その次の瞬間、バドは一瞬凍りついた。
何もかもが自分に似すぎている――。
その髪の色も、瞳の色も、そして顔立ちも――。
そして目の前のこの少年が一体誰なのかバドはようやく理解した。
ここに居たままならば一生出会うことすらなかったであろう、憎むべき双子の片割れ。
何故コイツがこの場所に来て、ここまで入ってきたのか、そんなことは判らなかった。いや、むしろそのような偶然にバドは心底感謝した。
ポカンと立ち尽くしている弟に、つかつかと歩み寄り、そしてそのまま中へと引きずり込み、そのままベッドに身体を放り投げてやる。
心底驚いた顔をしている、この期に及んで警戒心も何もあったもんじゃない表情の弟の首に手をかけて、そのまま殺してやろうと、ぐっと力を込めてやる。
思い知れ――!!
夢にまで見た、弟への殺意を込めて、きつく締め上げてやると、奴は酸素を求めて苦しげに喘ぐ。
その様に、バドは何故か、訳も無く興奮するのを感じていた。
同じ顔なのに、どこか艶めかしく、そそられる表情。
そうだ・・・。
このまま殺してしまうにはあまりにも物足りない。
上品で澄ましたこのお坊ちゃんを他の誰でもない俺の手で少しずつ堕としていってやろう・・・。
そして・・・。
身体が慣らされた頃に、俺が誰でどういう存在だか教えてやろう・・・。
その時にコイツがどれだけ罪の意識に苛まされ、壊れていくのか・・・それが見物だな・・・。
ククッと喉の奥で笑い、組み敷いた弟の身体をゆっくりと暴き立てていく。
案の定、何も知らない無垢なこの弟君は、触れられれば触れられるほど、過敏に反応を示す。
頬を上気させ、瞳に涙を溜め、その雫が零れ落ちる様はバドの加虐心を煽っていく。
「や・・・っ!」
それでも尚、己の高ぶりを認めずに必死に快楽を否定する姿に、苛立ちにも火が付き始める。
「ん・・・く・・・。」
布越しに、シドのソレを撫で上げ、焦らしていくと、声を押し殺して、必死に感じまいと耐えている。
つくづくお上品なお坊ちゃまだ。
いくら頭で否定したって、身体は嘘をつかない。
「どうして欲しいんだ・・・?」
せめてもの情けをかけて、バドはシドに聞く。
「言ってみろよ。」
もう、限界の筈だ。
「おねが・・・い・・・します・・・。もぅ・・・。」
それでも案の定、最後まで己の身体の中の快楽を認めようとしない頑固さを感じさせる懇願に、
苦笑しつつも、バドの手は直にシドのソレに触れ、そして一気に追い詰めていく。
「ぁあぁあ・・・っ!」
先ほどまでの強情さが嘘のように、素直に悲鳴にも似た嬌声を上げ、快楽を追い求めていく様に、バドは言い知れぬ喜びを感じていた。
もっとだ。
もっと狂ってしまえ――!!
「淫乱が。」
バドのその囁きが聞こえたかどうかは定かではないが、それとほぼ同時に、シドは絶頂を向かえていた。
手に吐き出された白濁を浴室で洗い流し、濡らしたタオルを持ち、再び室内に戻ると、いまだ放心状態で、頭を弱弱しく振っているシドの姿が目に入る。
「ふん。」
鼻で笑い、そしていつの間にか床に落ちていたシドの短刀を懐に仕舞いこむ。
そのままの姿で帰られては後々面倒なことになる。
ようやく手に入りかけている大切な“玩具”をこのまま逃してたまるものか――!
手にあったタオルを投げつけ、それで身体を拭くように促す。
呆気にとられた様子だったが、素直にそれで身体を拭く様を見て、ますます可笑しさを感じる。
人を疑うことの知らない、愚かな弟――。
帰ろうとするシドの肩を掴み、奪い取ったナイフで、奴の喉元を切っ先でなぞってやると、ビクリと身体を竦ます。
さぁ、思い知るが良い。
お前は俺に壊されるしかないという事を――!!
そのままきびすを返し、走り去っていくシドの姿を見送りながら、バドはほくそ笑んでいた。
幼き頃、あれ程望んだ、扉の向こう側の世界。
しかし今のバドにはそんなものには何の興味は無かった。
つづく
戻りますか?
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