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奇子~其の四~
「・・・来たか・・・。」
真夜中の刻、扉が重々しく開き、冷たい外気が中に入り込んでくるのを感じたバドは、感情の無い声でつぶやき、そちらの方を見やった。
「・・・・・。」
そこには、冷え込む夜の為に厚めで上等な外套を身に着けたシドが無言のままで立っていた。
昼間でさえ薄暗い部屋が、夜になり、更に暗闇と同化したかのような空間となっている。
「入れよ。」
バドは黙ったままその場に立ち尽くしているシドに言い捨てた。だが、シドは一向に動こうとはしない。
「・・・返して下さい・・・。」
「は?」
一瞬呆気に取られるバド。
「私は貴方からあのナイフを返してもらいに来ただけです。」
必死な表情で食い下がるシドの姿に、次の瞬間、バドは可笑しさがこみ上げてきた。
幽閉されている身の自分よりも、更に輪をかけた世間知らずの弟に対する苛立ちの可笑しさが・・・。
身体を屈め、笑い声を漏らすバドにシドはひるんだ。
「ふざけるなよ。」
だが、次の瞬間、不意に目の前の相手が怒気をはらんだ声で言い放ち、そして昼間と同じように腕を捉えられ、中へと引きずり込まれ、固いベッドの上に放り投げられる。
ただ、前と違ったのはバドの身体がシドの身体の上に覆いかぶさるような形になっていたということ。
「ずい分な建前だな?話し合いで解決できるとでも思っていたのか?」
「っ!」
シドの手首を押さえつけるバドの力が更に強くなる。
闇の中ですら鮮やかに浮ぶ、小動物をいたぶる獣のような残忍な瞳の色、その中に在る"憎悪"と"狂気"にシドは竦んで身動きはおろか、言葉すら出ずにいると、バドの手が、シドの外套を上へとめくり上げ、
いつの間にか一つに纏め上げたシドの手首の辺りでぐるぐると巻いて戒めてやる。
「や・・・やめ・・・っ!」
昼間の悪夢が甦り、縛られた手首を自由にしようと必死にもがくが、バドの手がその上から更に押さえつける。そして、抗議の声は、傍らにあった布切れを丸めて、口の中に押し込まれ中断された。
「っ?!」
「五月蝿いんだよ。少し黙ってろ。」
これでもう、抵抗することも、声を出すことも許されなくなったシドは、再びバドのされるがままに身体を開かされることとなった。
「んっ・・・んんーっ」
すでに衣服を剥ぎ取られ、バドの手がシドのソレに触れながら、片手で素肌を弄られる。
ギシリ・・・とベッドの軋む音が否応にも耳に入り、もたげ始めたソレを遠慮なく扱かれる。
「んーッ・・・っ!」
涙を零しながら頭を振るが、刺激を与えるその手は緩むどころか段々と早くなっていく。
「どうだ?ん?」
片手で顎を捉えられ、バドの顔がシドの目の前に現れ、その視線が、快楽に上気するシドの表情を支配する。
「イイんだろ?」
口は塞がれ、喋ることもままならず、でもその言葉に肯定するわけにはいかずに、首を振ることも出来ない状態なので、目線で必死に否定する。
「ぅ・・うぅ・・・。」
とめどなく涙を溢れさせながら、それでもバドの顔をどうにか睨みつけることは出来た。
「そうかよ・・・。」
その表情で、またもや自分に従う気がないのを見て取れたバドは、手の中で追い上げるソレの根元をキツく握り締める。
「んん・・・っ!」
突然せき止められた刺激に、シドの身体はビクンと跳ね上がった。
「う・・・ぅっ・・・んっ!」
逆流する熱が、出口を求めて、シドの体内を駆け巡る。達したくても達せない苦悶が、シドの表情にありありと浮かび上がる。
そんな弟を見て、歪んだ悦びに笑みを浮かべたバドは、根元を戒める手を、近くにあった細い紐へと変え、シドの身体から降りて、ベッドサイドに立ち、
その様を冷ややかに見下ろした。
「イイ姿だな。」
ふんと鼻で笑い、横たわる“玩具”の悶える姿態を余すことなく見つめてやる。
「ふ・・・っ・・・うぅ・・・。」
上から遠慮なく眺められている屈辱と、せき止められた快楽にシドは今すぐ死にたい衝動に駆られた。
だが、動きは封じられ、舌を噛み切ろうにもそれすらも許されず、白昼同様、目の前にいる“彼”が自分をどうにでも出来る全てを握っている事実。
それが尚更、シドの誇りを引き裂くこととなった。
「もう一度だけ聞く。正直に答えろ。」
この場にいる独裁者の最後の問いかけ。
「気持ちいいんだろ?」
すでに選択肢は残っていなかった。
問いかけられた言葉が、熱を開放する最後の警告と察したシドは、濡れた瞳を閉じ、観念して弱弱しくだが頭を縦に振った。
「・・・イイ子だ・・・。」
再び“彼”の手が、ソレに触れられ、戒めの紐を外され、刺激を送り込まれると、シドはそのまま絶頂に上り詰めていった――。
ようやく訪れた快楽の余韻に、肩で呼吸をしながら、そのまま身を預けようとするシドだったが、突如予期せぬ場所に痛みが走り、一気に意識が覚醒していく。
「―――っ!?」
己の放った液を指で掬われ、その指がそのまま誰にも触れられたことのない固く閉ざされた秘所に侵入し始めていく。
「んん・・・ッ!ん――っ!?」
さすがにこればかりは抵抗しようと、足をバタつかせもがきだすが、再び馬乗りになったバドの身体が、シドの足を押さえつける事となる。
「ん・・・っ」
後ろの苦痛を紛らわすためか、バドの唇がシドの胸の突起を啄みだすと、達したばかりで敏感になっている身体は、素直にその刺激に神経をそらし始める。
「んっ・・・く・・・ぅっ」
シドの神経がそれている間に、バドの指はすでに侵入を終え、細道を押し広げようと指は二本へと増えていた。
「んッ・・っく・・・。」
それでもまだ、シドの内部は狭く、バドの指をこれ以上進ませないかのようにキツク締め付ける。
だが、シドのソレは、前の愛撫のため、再び持ち上がり始めていた。
「ん・・・っふ・・・。」
侵入を続けていたバドの指が、シドの内部のある部分に触れたとき、シドの身体はビクリとふるえる。
その変化を目ざとく見つけたバドは、前の愛撫を中断して、再びその内壁を擦りあげてやると、間違いなく快楽の色が見て取れた。
「ふ・・・ぅん・・・っんっ・・!」
焦らすことなくその場所を責め立ててやると、シドはくぐもった声で喘いでいる。
痛みが快楽に変わるにつれ、その白い肌は、一筋の月光により、艶やかに染まっていく。
上気した頬に、濡れた睫毛、零れ落ちる涙。そして淫らで妖艶な表情。
「壊してやるよ・・・。」
憎んでいながらも、その色香を漂わせる弟の姿に、バドもそろそろ限界を感じていた。
指を引き抜き、その身体をうつぶせに返し、腰を浮かせてやると、不審に思ったのかシドが後ろを振り返る。
だが、取り出されたバドのソレが、先ほどまでいたぶられていた秘所にあてがわれた時、一気に血の気が引くのが見て取れた。
「ぅ・・・っ!!ぅぁああああ――っっ!」
逃げ出そうとする腰を引き寄せ、バドはシドの中にゆっくりと押し入っていく。 その間にバドの手が、シドの口の中の布を取り払うと、激痛を訴える声が遠慮なく解き放たれる。
「ひ・・・ぃっ!・・・やぁ・・・ぁっ!」
銜え込んだソコからは鮮血が溢れ、それと先ほどの体液が滑走油の役目を果たし、さらにバドを奥までと誘う。
「や・・・だ・・・っ!も・・・許・・・してぇ・・・っ。」
耐え難い痛みに、シドはすすり泣きながら息も絶え絶えに哀願するが、その声を無視してバドは逃れようとするシドの腰を掴み上げ、律動を開始する。
「いやあっ!・・・やだあぁぁっ!」
四つに這わされ、男のモノを銜え込みながら、必死に頭を振り、救いを求めるシドの声を聞きながら、バドはほくそ笑む。
「もっと泣き喚いてみろよ・・・。」
くくく・・・と喉の奥で押し殺した声で笑い、そっと耳元で囁きかけてやる。
腰に添えられていた手が、すでに起立しているシドのソレを再び握り、刺激を与え、内部ではバドの先端が先ほど発見した快感のスポットへと擦りつけ、シドを追い詰めていく。
「や・・ぁ・・・は・・ぁあ・・・っ!」
すると今までの苦しげな声に混じり、快楽を思わせる喘ぎも聞こえてくる。
「ふ・・・っあ・・・あぁあっ!」
身体を支えていた両腕がガクガクと震え始め、ついには力が抜け落ち、上半身が崩れ落ちる。その姿は、下半身をバドに曝け出すような淫らな格好へと変わっていた。
そんなシドの狂態を見ながら、この上ない至福に満たされるバドは、更に前と後ろの刺激を強めてやる。
「や・・・・あ・・・・っあああぁあ――っ!」
「く・・・っ!」
シーツを固く握り締めながら背をしならせ、二度目の絶頂に達したシド。それに伴い、内部の強い締め付けでバドもまた同時に達する。
己の放つ“熱”と、内部に広がっていく“熱”を感じながら、シドはそのまま意識を手放していった―――。
「ぅ・・・・。」
どのくらいの時間が経過したのか?いや、本当はほんの数十分の時間しか経っていないのかも知れない。
目が覚めたシドの身体は綺麗に拭かれており、ベッドに横たえられていた。
辺りを見回すと“彼”はいなかった。
今のうちに逃げ出そうと立ち上がる・・・が、激痛が身体を走った。
「っつ・・・!」
そのままへたり込み、痛みが治まるのを待つため、荒い呼吸を繰り返していると、不意に頭上から声が降ってきた。
「何だ。もう目が覚めたのか・・・。」
見上げると、そこには先ほどまで己を蹂躙した張本人が、何事もなかったかのように目の前に立っていた。
「あ・・・・。」
先ほどの、昼間受けた以上のおぞましい行為が一気に甦り、シドの瞳からは何度目かの涙が零れだした。
そしてそのまま目の前にいるバドを睨みつける。
「貴方は誰なんですか・・・?」
身体を小刻みに震わせながら、不意に口から出た言葉。
無理もなかった。今日初めて出会ったばかりの相手に、良いように扱われ、脅された挙句の結果がこれだ。
悔しさと怒りで声すら震える。
「俺が誰だって?」
そんなシドとは対照的にバドはせせら笑う。
と、次の瞬間、バドの顔から笑みは消え、手には例のナイフが握り締められ、座り込んでいるシドの身体を再び押し倒し、その顔のすぐ横に
刃を突き立てる。
「そんなことを聞く権利は、今のお前には無い。」
感情の無い声と共に、片手がシドの首に回される。再び締め上げられると察し、痛みを訴える身体を叱咤して、
相手を跳ね除け、後ろを振り向きもせずにその場を後にした。
至近距離で見れば見るほど、自分に似すぎている“彼”。
その“彼”が自分に向ける、怒りと憎しみに満ちた瞳――。
今のシドには、どうする術も無かった。・・・“彼”の玩具になる事しか・・・。
外はまだ、夜の闇に覆いつくされたままで、シドの心もまた闇に捕らわれ始めていた――。
つづく
戻りますか?
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