奇子~其の伍~
シドが立ち去った後、バドは再び闇の中に取り残された。
「ふん。」
冴え冴えとした夜の外気を、うっとおしげに感じながら、立ち上がり、開けっ放しの扉を閉める。
ガシャン・・・。
幼い頃は、この扉の閉まる音を聞くだけで気が狂いそうだった。
どうして、自分だけここに閉じ込められているのだろうかと・・・。
外に出たい。
誰かに会って話したい。
そんな当たり前の人並みの欲求はずっと満たされることを許されずに、ずっと独りで生きる事を余儀なくされた運命。
それどころか、いつしか出入りするようになった薄汚い大人たちの醜い欲望のはけ口にされることとなった己・・・。
『もう・・・許して・・・!』
先ほどの行為の最中の、シドの懇願はかつての自分を思い起こさせた。
それでも、奴等はその手を止める訳も無く、何度も己の身体を暴き立てていった。
悲鳴をあげても、誰もそれを聞いて止めるほどの慈悲は持ち合わせてなどいなかった。それどころか、その声を楽しむかのように、更に行為はエスカレートしていったのだ。
奴等の一人が吐いた言葉。
“お前は慰み者としてこの世に生まれたんだ!”
とうに涙は枯れ果てて、それでも心は抗い続けようと誓った。
笑いながら自分を嬲る大人達。そして・・・。
――殺してやる!!――
まだ見ぬ双子の弟、シドもこの手でこれ以上の、いや、死ぬ以上の生き地獄を味あわせてやろうと、あの時からずっと思っていた。
「――っ!?」
突如せり上がってきた胃液に、バドは浴室に駆け込んだ。
「ぐ・・・っ・・・うぇぇっ・・・!」
ゴホゴホと咽ながら、嘔吐した物を水で洗い流す。
「っ・・・はぁ・・・っはぁっ・・・・。」
閉じ込めてきた自分の忘れがたい過去。
だが、もうあの頃とは違う。
慰み者として罵られた俺が、蝶よ花よと大切に育てられてきたあの、許しがたい弟をどうやって壊していくか・・・――。
「ふ・・・ふふ・・・。」
流された水が汚物を下水に押しやっていくのを見ながら、しゃがみこんだ姿のまま、バドは笑い声を漏らす。
「はははははは!!」
あの程度では済まさない、否、済ますはずは無い。
やっとこの手で殺められる位に近くまで墜ちて来たのだ。
逃さない、逃すはずは無い。
やがて時は夜明けを告げる・・・。だが、バドの心はその光を永遠に拒んでいた・・・。
つづく
戻られますか?
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