奇子~其の六~
二人が出遭ってから、早何日が経とうとしていた・・・。
「う・・・ッぐ・・・。」
小さな窓から差し込むわずかばかりの月光は、今宵もまた、睦み合う二人の姿を照らし出している。
「ホラ・・・、ちゃんと銜えろよ。」
くくく・・・と喉の奥で笑うバド。
両手を後ろ手で縛り上げられたシドは、彼自身をその口に含まされていた。
生理的嫌悪で咽返りそうになりながらも、頭に置かれたバドの手が、それを拒むことを許さずにいた。
そして、バドの指示により、シドは腰を高く突き上げさせられ、その閉ざされた秘所に辿り着いているバドの指が
彼の内部をかき回し始めている。
「んく・・・っ!」
あの晩から、シドの身体はバドによって少しずつ飼い馴らされていった。
だが、シドは自分の身体に訪れ始めた目覚めを認めたくは無かった。ましてや、自分を無理矢理に陵辱したこの男にだけは絶対にこの変化を
知られたくないと思った。
そんなシドの様を見て、バドはほくそ笑む。
全く・・・つくづく上品な坊ちゃんだ。
建前では、ここに来る理由は、俺に奪われたナイフを取り戻すためだとか口では言っているが、身体の方は反応を隠せていない・・・。
頭に置いた手に、更に力を込め、喉の奥まで自身を突き入れるのと同時に、侵入した指もシド敏感な部分を擦り上げてやる。
「うぐ・・・ッ!んんぅ・・・っ。」
何の前触れも無く、熱い先端で喉を抉られたのと同時に、後ろからも快楽が走り、シドの身体はビクリと震え上がった。
「メス犬が。」
感情の無い、屈辱的な言葉が頭上から降ってきたのと同時に、瞳に溜まっていた涙が流れ落ちた。
そんなシドの不慣れな奉仕だが、その淫靡な表情に当てられて、だんだんと口の中で膨張していくバドのソレ。
「んぅぅ・・・っく・・はぁ・・・っあ・・っ!」
ようやく頭の戒めを解かれたのと同時に、道を押し広げられていく指はすでに三本にまで達していた。
「やぁ・・・あ・・・ぁ・・・っ」
その手はシドの髪の毛を掴み、無理に視線を合わせられる。その歪んだ笑みに捕らわれまいと、シドは顔をそらそうとするが、目の前の彼はそれすらも許そうとせずに、
向かい合う形でシドの身体を起こし上げた。
「あ・・・っぁ・・。」
散々焦らされたソコは、もうすでに物足りなくなっていたのか、先ほどシドが奉仕したモノの先端をあてがうと、ビクンと身体が跳ね上がった。
だが、バドは侵入を開始せずに、ソコにソレを当てたまま、こすり付けるだけだった。
「欲しいなら、自分で入れてみろよ。」
「っ!?」
またもや残酷な提案を出され、シドは激しく頭を振る。だが、すでにバドの両手は、シドの腰を掴み上げ、逃れられないようにしていた。
「ぅ・・・っく・・・。」
どうすることも出来ない悔しさに唇を噛み締めるが、自制の効かない快楽の前では、そんなプライドは無意味なものだと何度も身を以ってこの場で経験したシドは、
やがて観念してゆっくりと腰を下ろし、バドのモノを飲み込んでいく。
「ふ・・・ぁああぁ・・・っ!」
待ちわびた熱を体内に取り込んで、シドは身体を大きく仰け反らせた。
両手の自由が利かない故、何かにしがみ付くことが許されないため、バドの手が、シドの身体を支える形になり、全てを銜え込んだのを見計らい、律動を開始した。
「んあ・・・っは・・ぁあっ・・・!」
腰をがっしりと押さえつけられ、下から激しく突き上げられる熱と淫らな音に、シドの身体は薄紅に染まっていく。
そして、バドの唇が、仰け反っているシドの首筋、喉元、鎖骨へと噛み付き、何よりも朱い刻印を散らし、汗ばむ胸に舌先を這わせ、胸の突起をも刺激する。
「やぁっ・・・あぁ・・・っ。」
すでに理性など無いに等しかった。
襲い掛かってくる快楽の波に、シドはただ飲み込まれ、それに本能のまま答えるだけだった。
それが例え、行為が終わり正気に戻った時、気の狂うほどの後悔に襲われても。
身体の熱を抑える術などもうどこにも見当たらなかった。
やがて、シドの身体はそのままベッドに押し倒され、バドが片足を抱え上げ、そのまま最奥へと貫かれる。
「や・・・ぁっ駄目・・・っ、だめぇ・・・っ!」
頭を振り、涙をポロポロと零しながら、激しく責め立てられた末の快楽の訪れにシドは悲鳴をあげて達し、バドもまた、その体内に熱い欲望を注ぎ込んだ。
カタン・・・コトン・・・という物音を聞いて、シドは目を覚ました。
隣を見ると、“彼”の姿は無い。
身体を見ると、生々しい情事痕は残っているものの、身体は綺麗に拭かれている。
起き上がり、ノロノロと着替えながら、シドは何気なくベッドサイドにある、古びた棚の上に視線を泳がせた。
するとそこには、昨日までは無かった物が無造作に置かれていた。
「あ・・・!」
金箔を施された小ぶりのナイフ。
引っ手繰るようにそれを手に取り、そのまま懐に仕舞おうとした、が。
「何してんだ?」
その手をぐいっと掴まれて、血の気が引くのを感じた。
恐る恐る振り向くと、そこには髪の濡れた“彼”が立っていた。
「は・・・離して下さいっ!」
“彼”の手を振りほどこうとするが、その力は強く、シドの手首を掴んだままだった。
だが、シドも必死だった。ここでナイフを奪い返されでもしたら、またあの屈辱の連夜を味合わなければならない。
もう終わらせたい一心のシドは、何とか、手首を掴む手を振りほどき、扉を開けて帰ろうときびすを返した。
「それはお前の物じゃ無い。」
だが、彼の意外な言葉に、シドは動きをぴたりと止めた。
すると“彼”はやおら、自分の懐から一振りのナイフを取り出した。
「!?」
「俺の持っているのがお前の物で、お前の持っているのは・・・俺の物だ。」
“彼”の手に持っているものと、自分が持っているものは確かに同じ形をしていた。
だが、このナイフはこの家に生まれたものの証として持たされていたものであって、複製など出来るハズも無い。
シドは震えるその手で、そのナイフの柄に刻まれているハズである自分の名を探そうと、そこに視線を落とした。
“バド”
「なっ・・・!?」
驚きのあまり、顔を上げると、目の前の“彼”はおもむろに髪をかき上げ、その隠された顔をシドに見せた。
「――っ!!」
目の前には、『自分』がいた。
瞳の色、髪の色、そして顔立ち・・・・、薄暗くて見えなかった“彼”の姿を、今初めて目にしたのだ。
アスガルドの貴族は、双子が生まれると片方が幽閉されて育つと言う因習がある事はシドも知っていた。
だが、自分の両親が・・・いや、自分がそうだということは全く聞かされていなかった。
と・・・言うことは・・・。
「シド・・・。」
そっと、目の前の“彼”-バド-はコツンコツンと歩み寄り、少しかがんだ形でシドの耳元で囁きかける。
「お前を抱いていたのは・・・。」
嘘だ!そんなことが・・・。
「実の兄の俺なんだよ。」
そう告げ終わった時、シドの身体はがくりと崩折れ、焦点の合わなくなった瞳からは静かに涙が零れ落ちていた。
つづく
戻りますか?
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