それは何時の頃からか感じていた変化だった。
過去に憎んでいた双子の弟と和解して、このワルハラ宮を新たなる生活の場にしたのと同時、失われていた兄弟の絆を新たに育んで行く内に、何時しかシドの自分に対する違和感を感じるようになってきたのは。
それがどこかと言われても、それを的確に指し示してハイ、この部分ですよときっぱりと言い切れるたのなら、こんなにも悩む事は無い。
あれだけ手前勝手な自分の感情で散々彼を傷つけておきながらも、それでもシドはこうして蘇った今この時、俺を兄として受け入れてくれて、兄弟として寄り添って生きて行きたいとあの雪の中に願ったそれを叶え続けてくれて来た。
そう・・・、たった今までは。
今自分の身に降りかかっている状況で、それは結局のところ俺の独りよがりな思い込みでしかなかったのだろうかと思う暇も無いこの状況に俺は初めてこの弟に対して恐怖の念を抱いた。
く だ ら な い 噺
暗 黙 陵 辱 精 神 位 置
俺の身体を押し倒し、それを跳ね除けようとするも気がつけば身体は彼の発した凍気の小宇宙によって封じられており、その上に跨ったシドの手が、俺の性に伸ばされていく。
「ちょ・・っ、何す・・!」
「何って・・・、貴方のお考えになっている行為そのものですけども?」
しれっと言ってのけてそのまま頭を俺の股間に持って行き、躊躇いもなくソレを口に含まれた俺は、何故こんな事になったのかと自問自答する間もないままにその性戯に翻弄されていく。
「ン・・くっ・・・んんぅ」
ピチャピチャと音をたてて一気に根元までくわえ込まれながら繰り返されるその行為から齎されるシドのどこか甘さを含む声が耳に届き、本能はそれを快楽と受け止めてしまい、意志とは関係なく俺は追い上げられていく。
「ん・・や、やめろ・・っ!」
俺のソレが、何よりも大事な弟の口内を汚して行き、犯していく感覚がおぞましくて、必死に制止の声を上げても彼は止めるどころか、その綺麗なたおやかな手でソノ根元まで握り締めてくる。
「は・・ぁぅ・・っ」
こんな声を上げる自分が心底情けないとさえ思った。
彼の違和感の原因・・・、とっくに成人しているとは言え可愛さ余って憎さ百倍ではないけれど、あの戦いから明けて寄り添って溝を埋めようと語り合えば語り合うほどに、今はシドは俺にとって本当に可愛い弟だと思えて、兄としての保護欲もあったのだろう。
たまたまこの日、シドが親友と称した男の部屋から気だるそうに体を引きずるようにして襟元を正しながら出て来たとき、そういう関係なのかと瞬時に悟ったものの、否定する気は無かったもののやっぱり大事な弟をとられたと言う面白くないと思う感情がわきあがって来て、シドの部屋に先回りして上がりこんでその帰りを待っていた。
それ以上の気持ちなど勿論無いまでも、それこそ兄貴風を吹かせてみたいという気持ちもあったのだけれど、帰宅して問いただした際、あまりにも擦れた言葉にかっとなってその腕を引っつかんで寝台に押し倒したのは確かにやりすぎたと思った・・だけど。
「も・・やめ、ろ・・っ、シド・・っ!」
俺なんかとは違う、上品でしとやかで、そして何よりも無垢で汚れを知らない、もうこれ以上に穢れさせたくないと思う弟が何の羞恥も無くこんな事をしていると言う倒錯した現実。
引きずり堕とされていく彼の手官は双子だからなのか、感じる部分が手に取るように判るかのように俺の弱いところばかり攻め続けていき、そっち方面では不自由していなかった俺の性を翻弄していく。
「っ!・・・ぁ・・・~~~~!!」
不意にシドの顔がソコから退かされて、俺の顔を覗き込みながら弄られていくソレから白い欲情を吐き出す衝動に我に返り必死に押さえ込もうとしても、結局は抗う事はできずに彼の手の中に全部吐き出していってしまったのだ。
「どういうつもりだシド!」
どうしてこんな事になったのか、何故こんな事をしたのかと、ここまでされてしまえばもう聞くまでも無いと判っていたのだが、それでも叫ばずには居られなくて反射的に怒鳴りつけてしまう。
「・・・・ここまでされても判らないなんて・・・。」
心底呆れたような声でそう嘯きながら、これ以上は聞く耳持たないと言わんばかりに妖艶に微笑みかけられて、まだ熱を解放しても萎えずに居る俺のソレに跨るようにしてその上から腰を落としていく弟に顔が引き攣っていくのが判った。
「っ!?・・・おい・・っ!」
「ご心配なく・・・、下になっているとは言え、貴方には何の苦痛も危害も無い愛しかたですから。」
何・・と言った、今・・・!?
「っ!!??くは・・っ!」
まるで生き物の様に蠢く体内にソレを取り込まれていく感覚に獣の様な嬌声をあげて、その上で淫らに腰を動かす弟に、もう俺はある意味で笑うしかなかった。
後腐れなく楽しめる相手どころか、そんな対象にすらも見て居なかった・・・、俺の中では聖域の様に清らかだった弟が、自分のソレでこんなにまで昂ぶって犯されてよがり狂っていると言う現実。
「シド・・っ、シド・・・!!」
嘘だ、嫌だやめろ、もうやめてくれ――!
何を言ってるんだ?気持ちいいくせに弟の中はこんなにも開発されていてお前の為に解放されているんだぞならばもっと味わっておけよ
煩いうるさいうるさい煩い!!黙れ――!!!
せめぎあう理性と正直に反応する本能と耳に届く淫らな嬌声と寝台の軋む音が奏でる現実の三すくみの中、ふと緩やかに溶け始めたシドの凍縛結界。
その両腕を緩慢に動かして、絶頂間際に自分を追い込むのに夢中になっているシドの隙をついてその頬を捉え近づけさせ、自分の唇と深く合わせたのは、ただ単に、この期に及んでもまだ清かに思いたい弟の本性を暴くその声をこれ以上聞きたくなかったからかそれとも――・・・。
泡立つ欲情を吐き出して、投げ出した身体を横たえる中、不意にその場から立ち上がろうとするシドの腕を掴みあげる。
「・・・もう、どうしてこんな事をしたのかとか聞かないのですか・・・?」
そう問いかけるシドに対し、俺は静かにこう答えていた。
「・・・もう、聞いたところでいらん答えだ・・・。」
その言葉を聞いて大きく目を見開く弟を、やはり可愛いと思いつつも、じゃあお前はお前の意志を持ってシドの望むとおりの愛し方をしてやれるのかと言う理性を司る自分の声が聞こえる。
「・・・・この晩の事は無かった事にする・・・。」
「・・・・・・。」
その瞬間、一気に悲しそうに瞳を変化させるシドを見て、心が痛むのを感じたが、今時点では何とも言える答えがでない。
中途半端にしか彼を思えないのなら、例えシドにとって残酷であってもすっぱりと切り捨てろと言う考えに従い更に言葉を紡いだ。
「・・・だからお前も忘れてしまえ。」
こんな男のことなんぞ。
こんな状態で、今からお前は俺の大事な人だ、アイシテイルなどと言う言葉を吐ける人間が居るならば、俺の前に連れて来い。
パタン・・・と力なく戸を閉じる音をどこか遠くに聞きながら、俺はそのまま情事の修羅場になったベッドのシーツを引っぺがして、マットの上にその身を横たえる。
片腕で両目覆うようにして、忘れよう忘れようと自己暗示をかけながら、訪れて欲しい眠りだけをひたすらに待ち続ける。
だけどもいくら意識はそうであっても、その味を覚えこんでしまった本能は、それはもう出来ぬ相談だと嘲笑うようにしてまたじわりと湧き上がってくる熱を本格的に身体に灯す前に――・・・・。
→暗黙変愛一悪夢
使用音楽:犬神サーカス団『怪談 首つりの森』より「くだらない話」
戻ります。
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