誰か誰か私を止めて下さい。
あの方が私を受け入れられてくれないのならば、いっそその手で殺されるようにと願って下さい。
あの人のお傍に居られない事、弟としてですら居られなくなるのなら、いっそ消えていってしまった方がマシなのです。
だから私は余所口で欲望を吐き出していたのに、あなた自身の見当違いなお心遣いでそれは全て水の泡になりそうです。
く だ ら な い 噺
暗 黙 変 愛 一 悪 夢
「俺が言いたいのは・・・ッ!?」
あなたの上に跨る私に、全く何も危機感を感じてなど居ないまな板の鯉状態のあなたの能天気さにほとほと腸が煮え繰り返る思いを抱えて、私はあなたのそれに手を伸ばしました。
いい加減、何であなたなんかをこんなに想って欲望を催すために親友なんかに身を任せてお互いの身体を使ったマスターベーションを繰り返し、あなたへの想いを消耗させているのか、何だかもう判らなくなってきて疲れました。
ここまで鈍いあなたなんか、結局この体の上に居る私があなたを好きに出来るわけは無いとたかを括っていらっしゃって居るのでしょう?
何も性の知識も乏しく、子どもの作り方も全く知らなくてコウノトリが運んでくるとでも思っているほど、馬鹿みたいに純真無垢な弟なのだと思っているのでしょう??
「ちょ・・何す・・・っ!」
「何・・・って、あなたのお考えになっている行為そのものですけれども??」
その考えは大間違いだという事を今から教えて差し上げます。
「う・・ッはぁ・・シ、ド・・・ッ!?」
事の重大さに気づいた時にはもう遅く、その身体中に凍気の結界を張り巡らせて驚いている間に、私はあなたの股間に頭をずらして、自分のモノよりも若干大きく立派なあなた自身を銜え込みました。
「ン・・く・・・・んんぅ・・。」
一気に根元まで口に銜え込むとその途端口内にあなたの欲望のにおいと味が広がって来て思わずうっとりとしてしまい、唾液と涎を滴らせる音を立てながらあなたを追い上げようと頭をスライドさせていくと、その度に今まで聞いたことの無いような低い色気に満ちた苦しげな声が私の耳に届きました。
「ん・・や、やめ・・・ろっ!」
表情が見られないことが残念ですけれど、その声だけで私の内部はあなたが欲しいと訴えて、じっとりと濡れて行くのを感じて、思わず私は自分の穴に己の指を二本ほど突っ込んでぐちゃぐちゃとかき回しながら、片手であなた自身の根元を扱きながら更なる奉仕を続けていきました。
「は・・ぁぅ・・ッ!」
押し倒されたまま、足と足の付け根で動く獣の様な私の頭をあなたは今どういう心境で眺めていらっしゃるのでしょう?
それとも、彼とのママゴト情事を交わしている私と同じようにじっと瞳を閉じてこれが悪夢だと言い聞かせて何時醒めるか判らない悪夢の中の出来事に変姦していらっしゃるのでしょうか?
いずれにしても、そんなものは快楽の前ではただの現実逃避でしかないことは私は身を持って経験済みでありますから、結局は無駄な抵抗でしかないのですけれど。
「ん・・うくっ・・んんぐ・・っ」
そしてそれは私も同じで、頭の中でしか描けて居なかったあなたとの営みの妄想を強制実行に移したことで、双子だとか兄弟だとか言う生ぬるい関係で繋がっていられる時間は本日を以って最期になるわけですから、せめてもの夢としてあなたの味を覚えておきたくて昂ぶりを焦らすために扱いていた根元をきつく掴み上げて、先端から滲み出てくるあなたの蜜を舌先でペロペロと舐めて嗅いで居ると、耐えられないかのように体が反応を示しました。
「も・・、やめろッ・・・!シド・・っ!!」
たまらない。
静止をうながすその色っぽい低音の声。
そしてそれに伴う苦悶と快楽に満ちたその顔が見たくて、私はソコから顔を上げると、戒めていたその手であなたを追い上げようとして激しく上へ下へと快楽を促進させていきました。
「っ!ぁ・・~~~ッッ!!」
強情にも声を掻き殺してきつく瞳を閉じて凍縛しているその身体を微かに痙攣させながら、私の手の中で白い欲望を吐き出して絶頂を迎えたあなたを見下ろす私の中ももう限界で、欲しい欲しい、あなたが欲しいと訴えかけるようにひくひくと肉壁が痙攣していくのを感じました。
「っ!何のつもりだシド!!」
出すものを出して、飛んでいった冷静が再び宿ると、きつく私を睨みつけて来るあなたは影の頃と同じ様に憎しみと怒りを滾らせた同じ夕日色の瞳で見上げました。
「・・・ここまでされても判らないなんて・・・・。」
本当に莫迦で可愛くて愛おしい男。
もう答える義務も義理も何も無く、沸きあがる興奮のままあとは行動で示すのみですっかり開けた下の口であなたを誘う事しか考えられなくて、もう一度その身体の上に跨って先端をソコに押付けました。
「っ・・・!おい・・っ!?」
「ご心配なく。下になっているとは言え、あなたには何も苦痛も危害も無い愛し方ですから。」
「・・・っ!??っく、は・・っ?!」
「ああぁッ・・・!」
その広く逞しい胸板に両手を付いて、ずぶずぶに濡れそぼつ内部にあなたを取り込むと、更に悩ましげに顔を歪ませるその姿それだけで達しそう。
「いぃ・・っ、きもち、ぃ・・っ!」
彼などとは比べ物にならないほど満たされる身体。
私の中のあなたもビクビクビクと生き物の様に脈打って、それは嫌悪感から来るものなどではないことを教えてくれている。
「んっ、はぁ・・ぁあっんっ!」
もう、何が起こったのか判らない表情をしながら呆然と瞳を見開いたあなたを余所に、私は我を忘れてあなたの上で腰を使う。
浅ましい?罪?常識?倫理??
何でしょうそれは。何か甘くて美味しいものですか?
「あっんん・・っあ、はぁぁ・・っ」
ギシッ、ギッギッ、ギシギシギシと鳴き声を漏らすように軋む寝台で、希って欲しくて仕方が無かったあなたの身体だけで満たされる。
「っ・・シド・・シドッ」
名前を呼ぶあなたの声、そこから感じ取れるのは憎しみか憎悪か軽蔑か、それのどれも感じられなくて、ただ本能的に吐き捨てられる声だとしても、私の名前を呼んでくれる事それだけが嬉しくて仕方が無い。
もうこの夜だけで充分だと感情に任せて実行した自分を初めて褒めそやしてやりたいほど、あなたとのそれは他の何よりも気持ちが良くて仕方が無い。
例えそれがあなたの感情と動きを無視した行為でも、この後に訪れるであろう修羅場を差し引いても、この蜜時には到底適わない。
「あぁっ!あぁあっ・・バド・・バドぉ・・っ!!」
幾度も幾度も頭の中でしか叫べなかった名前が声帯を突き破って音になる。
それに呼応する形で私の中でまた一際大きくなるあなたをもっと銜え込みたくて更に腰を落としてがくがくと身体を揺す振ると、丁度いい位置にあなたの熱い先端が当たる。
「っ、シド・・、ぅぁ・・っ!」
思わず肌蹴させたその胸に強く爪を立ててしまい赤い線筋を描くと、またその唇から甘い声が上がる。
自分でつけたばかりのその傷跡に舌先を這わせてる為に身体を屈めると、角度が変わって更にその奥にあなたが辿り着いて私を絶頂に導いていこうとする。
「やぁ・・っ!も・・ぅっ・・!?」
不意にその時、だらりとして反応を奪っていたはずのあなたの両腕が微かに動いて、その大きな手が私の頬に宛がわれてそのまま顔を引き寄せられました。
「っ!!?ンン・・っんーーっ・・!!」
唇に当てられたのはあなたの唇で、不意に奪われた舌先に私の絶頂の声は吸収されていき、私の内部であなたが大きく弾けて、生温かい熱が広がっていくのを感じました――・・・・。
「・・・・・。」
名残惜しい気持ちを残したまま、朦朧とする意識の中を彷徨うあなたから抜け出して寝台から降りようとすると、不意に気のせいではない確かな熱を持つあなたの手が私の手首を掴みあげました。
「・・・・・・・もう、どうしてこんな事をしたのかとか聞かないんですか・・?」
段々と現実に覚醒していく頭で、こんなことをした代償を支払う前に逃げ出そうとする私をあなたは離さないまま、それどころか段々と強くなっていくその拘束。
「・・・もう聞いたところでいらん答えだ・・・。」
投げやりにもどうとでも取れるその言葉を、一体どう解釈しようと逡巡する私の頭の中。
「・・・・・・この晩の事は無かった事にする・・・。」
「・・・・・・・・。」
それは拒絶なのかそれとも逃避なのか。
「だからお前も忘れてしまえ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
何てお優しいあなた。
ここまでされておいても尚、私の本性を見ようとも気づこうともしない残酷なあなた。
それでも私は・・・。
「・・・・・はい。」
言っておきますが私は一切謝る気持ちは毛頭ありません。
その言葉を口にしてしまえば今度こそあなたを手放すことになることを判っているから、結局は従順なあなたの弟の仮面をまた取り付ける事になって。
結局は元の木阿弥、雁字搦めの恋奴隷。
本当にこの夜の事を何も無かった事に出来るのか自信はなかったけれども、それでも私はあなたが好きで失いたくないのが本心で。
ありったけの欲望と想いを込めた今夜の出来事は、結局は何時もと相手が違うだけのママゴト情事でしか無かったわけですか・・・?
それで居て、また出口の見えない夜を彼と過ごす事になる羽目になる――・・。
もういい加減終わらせて下さい。
否定も肯定もしたくなく、逃げる位なら、いっそこの手で殺して下さい――・・・。
→暗黙陵辱精神位置
使用音楽:犬神サーカス団『怪談 首つりの森』より「くだらない話」
戻ります。
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