狂 祈 愛 願-I wish all died-



空気が引き裂かれる研ぎ澄まされた音が耳に届いた時――、
首筋の肉が裂けて、血が噴水の様に溢れ出した。


あぁ・・・。
この時私の中に、何者にも代え難い快楽と愛しい想いが交錯して沸きあがったのを、今でも忘れる事は出来ない・・・。


狂 祈 愛 願
-I wish all died-


「ミザルの・・・シド・・・。」
カツンカツンと、足音を響かせながらやって来るのは、雪のように白く冷たくも、美しい甲を纏ったもう一人の私だった。
どくどくと冷たい石の床の上に流れ出る血液と共に、急速に失われる意識下、それでも何とかして貴方の顔を見ようと、悪足掻きを重ねた結果、うっすらと瞳を明け続けることには成功したようだ。
この時に目にした自分の血の色が、他の人間と変わらない紅だった事に初めて気が付いた。


私は、生まれていてはいけない人間だと。
人一人殺して生き永らえ続けてきた、人の皮を被った醜い獣だと。

あの日、貴方に再会して真実を知ったときから、ずっとそう思っていたから。



「ζ星、ミザルの神闘士・・・、名家の嫡男・・・、近衛隊の優秀なる副官・・・。はっ!こうなってしまえば、その肩書きもただの負け犬の遠吠えに過ぎんというわけだ。」
「貴様なぞ・・・その程度の人間だったと言う訳だ・・・。」

すぐ傍にいる貴方の声が、まるで空から降る雪のように重みも、現実感も何も無くふわふわと耳に届く。
そして、その表情は積年の祈りと願いを果たしたかのように清々しく、淀んだ瞳に映る。

待ちわびていた瞬間。
ずっと、祈り続けていた願い――。
それが叶ったのは貴方も私も同じ事。


貴方の消えることの無い憎しみと殺意だけが、乾ききっていた私の心を潤すのです――。
貴方が私の“影”となった時・・・、否、あの日に出会ってしまった時から、貴方は私の全てとなったのです・・・。


貴方の望む事を、私はせめて叶えたいと。
貴方に植えつけられた絶望と同じだけの苦痛を、どうか私に与えて欲しいと――・・・・。

だから私は、貴方の望むがままに―――・・・・。



「お前が操る同じ凍気の小宇宙で、お前を何時までも綺麗なままで残して置いてやるよ・・・。」
「そして、お前を殺めた男の傍に、その骸はずっと在ることとなるんだ――・・・。」
・・・・・・・・・・・。
ほんとうに?
そうしてくださるんですか・・・・??



思いもよらない兄の提案に、停止しかけた思考に悦びが流れ込む。
でも、もう、とっくに肉体は壊れていたみたいで、それに反して酷使していた瞳の前の景色はノイズがかってきている・・・。


あ、ぁ・・・・。


せめて、最後に伝えたい言葉を必死に唇で模ろうとするも、シドの身体は骸と化し、その命は完全に流れ朽ちた。

その傍で、愕然とした表情でその骸を見下ろす、兄の心を完全に打ち砕いたままに。





あ・・・り・・・・がとう・・・・・・・。




さ・・・・よ・・・・、なら・・・・・。



続 く

戻ります。