番外編2:モブ先輩と猗窩座
童磨は出番なし注意
「なあ」
「はい?」
出張を経てしばらく経過した後、俺らは割と仲の良い関係になった。ちなみに出張も残すところあと三日になった時、こちらに赴いた童磨さんに対し、巻き込まれた俺のことを頼田はきちんと誤解だと説明してくれた。『そうだったんだね。早とちりしちゃってごめんね。これからも猗窩座殿をよろしく頼むよ』と童磨さんから頭を下げられた。と言いつつも、その虹色の瞳はしっかり『俺の猗窩座殿に手を出したら社会的に抹殺するよ?』という牽制が滲み出ていたのはまあ致し方がないというか、うん。
まあそんなこんなでLI〇Eアドレスを交換しリモート飲み会などをやる仲にはなった。ちなみに初めて童磨さんを見たとき、『本当に可愛くて綺麗でいい匂いもして豊満な胸を持ってて色っぽかった』という感想を素直に抱き、頼田が嘘をついていないことを心から理解した。そして隣で『これ以上俺の童磨を不埒な目で見るなよ』という牽制の視線を向けられたのは、まあ、うん、しょうがないと割り切るしかない。
そんなこんなで今回は俺が一時的に頼田のいる会社に出向になり、以前の縁もあったため親睦を深めるために居酒屋へと出向いた。
ちなみにその居酒屋は八坪の居酒屋の関東支店であり、ちょうど今北の大地フェスなるものをやっていたのでそれらを中心に頼んでちびちびと飲んでいる。
「お前らって結構付き合いは長いのか?」
「……そうですね、なんだかんだで15年以上は一緒にいます」
「え!?」
思わず俺は驚きの声を上げる。新卒で入ったと聞いたので頼田の年齢は23~24(童顔なのでもっと若く見えるが)。15年以上ともなると幼なじみの域である。と言うかそれならクリスマスだって何年も一緒に過ごしていたはずなのに。何であんな新婚夫婦も裸足で逃げ出すくらいにラブラブなんだ。
「はー、そんなに一緒にいてもあれだけラブラブなのは恐れ入ったなぁ」
心底俺は感嘆した。俺たちだって付き合いたての頃はこんな感じだったけど今は結構落ち着いている。それは俺が彼女であって頼田が同性であるというのは全く関係はない、はずだ。ちなみに俺は確かに頼田の相手が男であることには驚いたが、男同士、女同士、無性同士など、様々な愛の形が認められつつある現代だ。変に隠し立てしようとしないコイツの態度はぶっちゃけ男として憧れる部分もある。なのであの日居酒屋に居合わせた人間と直に童磨さんと頼田の再会を目にした奴らの口添えもあるのかどうかは知らないが、表立ってそのことについて弄り倒してくるバカタレはいなかった。
「…俺は……」
かたり、と隣にいる頼田がぐいぐい飲んでいた酒のグラスを置く。少しだけ頬が赤いその表情はやはりどこかあどけなさを感じるが、ふと渋み走ったような大人びたものへと変わった。
「…あいつに何も伝えられなかったんすよ……」
「は」
何も伝えられていないって、どこが? お前、十分すぎるほど童磨さんに気持ちを伝えられているよ。むしろどうやったらそんなに生まれたてのような愛情を持てるのか教えてほしいとすら思う。
「…腐るほど時間があったのに。あいつ、俺と距離を詰めたがっていたのに…。俺が弱かったばっかりにあいつのこと傷つけまくって…」
悔しそうに俯きながらテーブルの上に置かれた両手がぐ、っと握りしめられていく。
「…そっか……」
俺は石狩鍋の残りをすすりながらビールを煽る。これ以上は何も言えなかった。
その言葉の真相のほどは俺には分からない。童磨さんに罪悪感を抱くような過去を頼田が持っているか否かはあえて聞かなかった。根掘り葉掘りゴシップ好きな野次馬根性を発揮するほど悪趣味でもないしな。
「だからその分、俺を受け入れてくれたアイツに、”あの頃”の分までたくさん伝えたいんすよ…」
「そっか…」
素直に羨ましいと思う。それほどまでに想える相手がいる頼田も、同じくらい頼田を想っているであろう童磨さんも。
どんな過去が二人にあってそれを乗り越えてきたのか、それを知るにはまだ付き合いは浅すぎるし、きっと頼田は話すつもりが無いのだろう。今は酒精に任せて口が滑らかになっているだけで。
だけども、時間があったのにそれに甘えて言葉を伝えられていなかった。その一言は俺の心の奥深くに突き刺さる。
「ありがとな、頼田」
「はい?」
「俺もさ、恋人がいるんだけど、お前を見習ってたくさん愛を伝えるようにするわ」
そう言った俺を頼田は向日葵色の瞳でじっと見つめた後、にやり、と好敵手のように笑いかけてきた。
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