童磨の頼み通りに猗窩座はテレビ通話のモードに切り替える。
『あ、猗窩座殿だ♪』
とたんに聞こえてくる童磨の元気そうな顔と声に思わず涙腺が緩みそうになるのをどうにか猗窩座は押し留めた。
人込みでごった返す公園内を早足で歩く際に視界の端々に、場所は違うが童磨が美味しいと食べていたフランクフルトやりんご飴の店も数少ないながら並んでいるのが映る。ああ、此処にこいつがいたら喜ぶのになぁという気持ちが遅れてようやく湧き上がってくる。
(会えた…)
そうしてスマホのディスプレイ越しだが童磨の満面の笑顔が目の前にあり、色々決壊を迎えそうになった思わず猗窩座は口を押えて俯いてしまう。
『え、猗窩座殿、大丈夫!?』
全国的に気温が高くなる今の時期、体力のあるなしに関係なく熱中症が怖い時期だ。猗窩座がいくら体を鍛えているからと言って水分補給を怠っていれば話が別になってくるため、童磨は画面の向こうにいる猗窩座を心配して声をかける。
だがとてつもない安堵感に見舞われた猗窩座はそんな童磨の声にこたえられる余裕はなかった。
(会えた…、童磨、良かった)
来年も再来年も、次もその次もそのまた次も一緒にいると決めた。
当たり前のように見えていた未来があっけなくも残酷に散らされたのはもう過去のことだ。
『猗窩座殿ー?』
「な、んでもない……。大丈…」
その瞬間、小休止を挟んでいた花火の打ち上がる音がどどぉん、という音が響き渡る。
「そうだ、花火」
『ゴメン、猗窩座殿』
「え?」
童磨の要望を思い出し花火を映そうとする猗窩座に童磨は小さく謝罪する。
「童磨?」
『あのね、花火よりもね…その…』
らしくなく液晶の中で言い淀む童磨を見つめると、彼はそのまま虹色の瞳を泳がせてしまう。
『…猗窩座殿と……チューしたくなっちゃった……』
「っ」
突然の要望の変更に〝昔〟だったら切れ散らかしているだろう。だがそんな気持ちも起こりえない。きっと童磨は自分の様子がおかしいことに気づいてくれたのだ。猗窩座に花火を映してほしいと頼んだのもすぐにでも会いたいのに会えない距離にいる現状をどうにかしたいという彼の優しさや労わり、愛情からなる言動であることを猗窩座は心から理解している。
『…ごめん、走らせておいてこんなこと言って…』
わがまま言ってゴメンねと謝る童磨に猗窩座は勢いよく首を振る。こんなささやかでいじらしく己の心を掬い上げてくれる頼みがワガママなはずがあるか。
「っ、らしくないぞ童磨。そんな顔をするな」
先ほどまで感じていた焦燥は、健気すぎる恋人の願いを叶えたいという一心に塗り替えられていった。
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