恋を知りたい童磨が妓夫太郎にあるお願い事を持ち掛ける話

「というわけなんだけど、妓夫太郎君。俺の相手をしてくれないか?」
 夜の帳が降りて活気づく花街のある遊郭の上等な一室にて。ぶはあっと差し出された稀血を勢いよく妓夫太郎は窓から噴き出した。とっさに横を向いて目の前にいる麗しい恩人の顔にかける惨事を避けたのは奇跡だと自分を褒めたい。
「げほっ、ゴホゴホガフッ」
「大丈夫? 妓夫太郎君」
「や゛、それは大丈夫っす…」
 甲斐甲斐しくこちらへ移動し痩せぎすの背中をさする恩人のその手は滑らかであり、血の臭いよりも先に漂うふわりとした蓮の香りに思わずクラりとしてしまう。
「…でも、何で俺なんすか」
 どうにか調子を整えた妓夫太郎が隣に座る華やかな容姿を持つ童磨の顔を見つめながら問いかける。

 彼が妓夫太郎に頼んだこと。それは、自分を抱いてほしいというものであった。
 一体全体何がどうしてそうなったのか。それは童磨が自身の感情が無いことに起因する。
 永い時に渡り、万世極楽教で教祖を務める童磨は頭の弱い信者たちから色んな相談を持ち掛けられ、望む者には救済を施していた。
 その悩みの凡そは金や地位や色恋沙汰にに関するものであり、その全てを持っていた童磨は何故そんなことで身を持ち崩すのか内心馬鹿馬鹿しく思っていたが興味はあったので、親身にその相談に向き合っていた。
 その中で特に興味深かったのは恋愛感情であり、どういった感覚で身を持ち崩すのかを味わってみたくたびたび相手を変えて恋の駆け引きを味わっては見たものの、最後は結局相手が童磨に夢中になってしまい、分かる前に救済する結末ばかりを迎えていた。
 そこで童磨は考えた。これ以上同じことをやっていても時間の無駄だ。いっそのこと付き合う相手の性別を変え、自分が抱かれる側になればまた違った感情を味わえるのではないかという斜め上のものであり、その相手として色街で育ってきた妓夫太郎に白羽の矢が立ったという経緯である。
 まあ、言いたいことは大体わかる。だがそれでも何故自分が…という考えがどうしても妓夫太郎は拭えない。確かに色街で生まれ育ち取り立てを通じて様々な知見を得てきたがそう言ったことは未経験である。それは偏に己の容貌に劣等感を持っており、女性はおろか陰間の男娼にすら相手にされないという自己肯定感の低さも確かに影響する。
 だが、それよりも先立つのは全くの別の感情だ。


「猗窩座さん、はどうしたんすか?」


 自分でこの言葉を口にしたとき、胸が軋むのを妓夫太郎は感じた。

 猗窩座、すなわち上弦の参の鬼。かつて上弦の弐に座していたが、上弦の陸であった童磨が入れ替わりの血戦を果たし、見事に下剋上を果たした相手でもある。
 修羅の如くひたすらストイックに武術を磨き鍛練を重ねてきたその鬼の性格は苛烈であり、喰われずに生かされたことを屈辱に感じ、当初は空気を読まずに親友として接して来る童磨に対し当たり散らしていた光景を妓夫太郎は目の当たりにしていた。
 その姿を目にした際、非常に見苦しくみっともないあがきだと黄橡の瞳をしかめたのは記憶に新しい。だがそれでも童磨が猗窩座に近寄っていく度、拳を振り上げる頻度は徐々に減っていき、それどころか肩に腕を回される度に硬直し、青白い顔がうっすらと紅に染まることすらあった。もっともそれは一瞬のことであり、色街に精通している…否、童磨に養い親以上の想いを抱いている彼でなければ気づけない変化ではあったが。
 そして猗窩座も「ええい鬱陶しい! ベタベタくっつくな!!」と言いながら身をよじって童磨の豊満な身体から逃れ、彼が追い付けないくらいのスピードで立ち去っていくのを何度も何度も目撃している。それはまさしく思春期特有の甘酸っぱい青春(後の世にアオハルとも呼ばれる)の一ページとも呼べるような初々しい反応であるのは違えようもなかった。そしてそんな猗窩座の後姿を「もう、本当につれないんだからなぁ……」と少し寂しそうに見送る恩人の後から見る横顔も何度も何度も見つめてきた。
 だからこそ、妓夫太郎は自分が選ばれることになるなんてにわかには信じられないのだ。
恋心を知るために相応しい相手は、悔しいが自分ではない。あの鬼こそがふさわしい。認めたくないが認めざるを得ない。そんな風に考えてしまい、知らず妓夫太郎は奥歯をぎゅっと噛みしめる。

 だがそんな養い子の反応を前に、童磨は虹色の瞳をきょとりとさせながら、え?と心底不思議そうに首を傾げた。

「何で猗窩座殿が出てくるんだい?」
「は…?」

 麗しい恩人の子供じみたその仕草に見惚れるよりも先に、間の抜けた声と共にその姿を晒してしまう。

「いや、だって…猗窩座さんとは…」
「だから何で?」
「何でって…」

 まるで幼子のように無邪気に問いかけて来る童磨に、妓夫太郎は混乱するばかりだ。
 だってどう見たってあの鬼は拗れた思いをあんたに抱いている。そしてあんたも憎からずあの鬼を想っている。そうじゃなきゃあんな顔するわけがないじゃないか。


「猗窩座殿は俺の親友だよ?」


 そんな妓夫太郎の戸惑いを共有能力を使ったかどうかは定かではないが、間髪入れずに答える童磨に、一瞬何を言われたのか妓夫太郎は分からなかった。
「親友は親友であってそれ以上でも以下でもないだろう? 俺は恋心がどんなものかを知りたいんだ」
 そう言いながら、妓夫太郎の太ももにするりと手を伸ばすその仕草は、きっと数多の女に言い寄られたときのものを真似たのであろう。だがその感触よりも強い歓喜の感情が妓夫太郎の胸の中に強く湧き上がってくる。

「は、はは……」
「? 何を笑うんだい?」
「いや、だって…、くくっ…」

 童磨からしてみればこれからいい雰囲気に持ち込もうとしたのに、いきなり背中を丸めて笑い出した養い子に戸惑うしかない。だが妓夫太郎は申し訳ないとは思いつつもそれを止めることなど出来なかった。


(ざまあねえああああ。上弦の参ともあろうお方がよおおおおお!!)


 この場に当人がいて思考を読まれたなら即座にぶちのめされていたことだろう。だがそうと分かっていてもこの愉悦は止めることなど出来ない。
 部外者である自分から見ても分かるほど、あんなにあからさまな想いをこの麗しい人に向けているのに、当の本人は親友という枠組みに放り込み気づいていないばかりか、恋愛という土俵にすら上らせてもらえないのだから。
 これが笑わずにいられるだろうか!

「はは、すみません、童磨さん…」
「そう? じゃあ気を取り直して…」

 うーん、こんな感じだったかなぁと今まで遊んだ女の科を作ろうとする童磨を妓夫太郎はやんわりと静止する。

「ここから先は俺に任せてくれませんか?」

 知らず、低い声でそうささめきかければ、虹色の瞳がほんの少しの戸惑いに揺れるのが分かる。
 それを了承と受け止めた妓夫太郎は、恋心を知りたがる恩人の心にあの親友よりもその存在を刻み込むために、初めての口吸いを捧げながらゆっくりその体をかき抱き、暴き始めていったのだった。

 

何かやたら見かけるんだけど、女をとっかえひっかえしてもなんの感慨もわかないどまが、君を抱いたなら何か変わるかもしれないとかほざきながら座をレする展開。あれってさ、普通にどまには何の変化ももたらさないし時間の無駄でしかないと思うんだよね。第一感情が無くて執着できないどまが座に対して『親友だ』と言い切ってる(思い込んでいる)時点でそれ以上でも以下でもないと私は思ってる。そもそも男でも女でも恋心が分からないから親友とそう言うことして恋愛感情知れるかって話。いくらBLはファンタジーだからったってどまみたいなタイプはそういうファンタジーは通用しないでしょ。
だから男を相手にする際、今まで女を抱く側だから分からなかったんだ。なら、抱かれる側はどうかという好奇心から受けに回ると思うし、その相手は色街に詳しい妓夫君、自分より序列が上で衆道を嗜んでいたであろうしぼ殿に頼むと思うよ。
猗窩童好きの私としては座に頼んで欲しいけど、すでに座は親友という枠組みに入れちゃっている以上、あちらからアクション起こさない限りはそれ以上の発展は否めないと思います。なんていうかどまさんって女性脳っぽい。

そして妓夫君の場合、そんなプラトニックな関係なんかよりも恩人に恋心を教えられるかもという美味しい立ち位置をGETしたので、この機会を逃すことなくどまさんの心を奪うため男を磨いていくと美味しいなと思います😋😋😋

 

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