俺の親友が色々とつれない件について - 2/5

パターン①

そんな風に色々と思考が散り散りになる童磨を前にしても漸・閼伽は動こうとはしない。こうしていたい気持ちはわかるけども友人として招いたわけじゃない以上は普通に信者として扱わなければならない。長い事側近として勤めてくれたあの剃髪の子が次の信者を、と呼びに来る前にどうにか彼の悩みを聞いてあげたいと、少しだけ焦り始めた童磨の気配を感じ取ってなのか、漸・閼伽は跪座する。
「へ?」
一段落高く設えた御座所の前にやってきた黒髪の彼の表情は御簾変わりの薄布に少しだけ隠されてしまう。そのせいで余計に彼が何を考えているのか分からなくなった童磨は戸惑いの声をあげる。
長身ではあるが今の童磨は洋風の座布団に腰を下ろして座っている状態だ。一段落高い御座所と合わせても、筋肉隆々の代の男から見下ろされればそれなりに威圧感を感じてしまう。
ごつりとしたタコのできた手が鬱陶しそうに薄布を掻き分け御座所へと足を踏み入れる。剃髪の彼がもしもいたら卒倒しそうな光景であることは勿論童磨は気づいていない。ただ少しだけ心がざわつくのみだ。
(あ、もしかして仲良くなれる戯れをするつもりなのかな?)
そう瞬時に頭を切り替えたが次に湧き上がってくるのは更なるざわつき。
(でもなぁ、ここであの戯れをするのはちょっとなぁ。血が畳にこびりつくし、側近のあの子になんて説明しようか)
一応は一信者と教祖としての立場なのだから、貴き身分の教祖様がどこの馬の骨とも知らない信者から拳を振るわれたとなれば天地を震わす大事件と化す。ただでさえ敬虔な始祖からは目立つことはするなと釘を刺されているのだ。
それでも童磨は一つ息を飲み、そっと両手を広げた。始祖からの言葉も側近の反応も確かに大事だ。だが、こうやって招待を隠してやってきた親友だって大切なのだ。救いを求める人を救えないで何が教祖だ。
もう一度改めて教祖の仮面をかぶり直した童磨に彼がそのまま手を伸ばす。その衝撃に耐えようと密かに歯を食いしばる童磨の身体は力の限りに殴り抜けられることはなく。
「へ?」
そのまま彼の固く逞しくひんやりとした腕の中に抱きしめられることとなった。
「あ、あの…」
内心予想だにしないことに驚く童磨を黙らせるようにぎゅううっと力強く抱きしめて来る。
「漸・閼伽殿……」
「ざ・あかじゃない、あかざだ」
思わず名前を呼べば、同じ声だが違う誰かのどこかで聞いたような言い回しの言葉を吐きながら、漸・閼伽…否、猗窩座はただただ大柄で豊満なその身体の抱擁を継続するのみだった。
「…すまなかった…」
「?」
疑問符が頭の中にいっぱいに浮かぶ。何を謝るのだろうか。思い当たることと言えば先程会話に入れてもらえなかったことしかない。気のせいではなかったのかと思うと少しだけ気落ちしてしまったが、それでもこうするためだけに来た猗窩座の心情的に何か理由があるのだろうと童磨はすぐに考えを切り替え、そっとその背中に腕を回す。
「よいよい、猗窩座殿」
先程猗窩座の腕を切り落とした黒死牟に返した時と同じトーンでそう言えば、ますます猗窩座は童磨の身体をひしりと抱きしめた。
「俺は何も気にしていない」
「…」
無言のままぎゅうぎゅうとただただ抱擁を繰り返される。血鬼術や強さは童磨の方が上とは言え、力だけで言えば猗窩座の方が僅かにだが上回っている。無防備だったとはいえ曲がりなりにも一撃であごを粉砕できる力は持っているのだ。だがそんなのは男同士の所謂拳と拳のぶつかり合いだとしか童磨は認識していなかった。こうして抱きしめられているのは仲直りの握手的な物だというのは分かっているが、そこに謝罪が入る理由がどうしても童磨には見えてこなかった。
「わからなくて、いい……、分からなくていいんだ…」
そして肩に額を押し付けて聞こえてくるのは気弱な親友の声。そんな彼の声など今まで聞いたことがなかった童磨は内心で戸惑いつつも、彼の気が済み腕が離れるまでひたすら抱きしめられるがままだった。

果たしてこの時の抱擁がどんな意味を持つものだったのか。
その意味を童磨が知るのは、今生ではなく地獄へ堕ちた後のことであった。

 

座殿の偽名は適当に変換候補を眺めていったら良さそうな感じがズラズラ出てきたのでそれを使いました☆ いかにもリングネーム系でかっこいいですよね漸・閼伽って!!
元ネタはkatoちゃんkenちゃんご機嫌テレビっていう番組で、kenちゃんが女に惚れてkatoちゃんと同居解消した後、結局女には婚約者がいて出戻る羽目になったkenちゃんが自分たちがやっている探偵事務所に戻るために変装した挙句「けむらしんです」という偽名を使うネタです。
あの番組、めっちゃ面白い話が多かったけども中には夜中にトイレに行けなくなるほどおっかない話もあったよね。
特にインパクトが強かったのは人面鼠と猫蛇の話。今なら確実にR規制がかかるってくらいホラーだったしグロかった。

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