俺の嫁の〇〇がキツキツだった件について

 俺だけが…否、俺のグッズだけが先に世に出て数年。今か今かと待ち侘びていたこの時がついにやってきたと、俺は宅配業者からいそいそと荷物を受け取って部屋に引き上げた。
 特に隠し立てする必要もないのだが、何となく玄関から廊下までを抜き足差し足忍び足で歩き抜き、自室へと引き上げた俺は逸る気持ちを抑えながら段ボールを開けて中身を取り出す。
 二種類の緩衝材に包まれた、少し小さめの写真スタンドほどの大きさのそれは、(俺を含む)全国の童磨ファンが首を長くして待っていたアニメでの上弦会議のラストシーンのアクリルスタンド。その名も『入ってもらっておくれ』アクスタ。一部の発酵したファンからは『挿入ってもらっておくれ』という名で呼ばれているとかなんだとか。
 薄暗い教祖部屋を背景に、童磨の色っぽさ愛らしさそしてけしからん胸のデカさが此れでもかと強調されているそのアクリルスタンドは送料込みで3000円以下というどう考えても価格設定を間違えたとしか思えない金で買えてしまうため、全財産を叩いて買い占めようと思ったくらいだが、当の本人である童磨に、他のファンが悲しむからやめようよと止められたのでやらなかった。だがやはりこのクオリティを見ると、せめてもう二つほど買えばよかったと若干の後悔に襲われている。
 つうかなんだその姿は。フカフカのヨ〇ボークッションに片M字開脚+右膝に右肘をついているポーズはどう見ても煽情的過ぎるし、どう考えても胸なんかそこらの女よりもある。流石俺の嫁色気の度が過ぎる。つうか間違いしか起こしそうにない薄暗い部屋でそんな恰好で出迎えられた頭の弱い信者がこの後コイツに圧し掛かってその豊満な身体を貪り尽くしたかと思うと憤怒で買ったばかりのアクスタを壊してしまいそうなほどの怒りに見舞われそうになるがそこはどうにか耐えた。〝昔〟は〝昔〟、今は今。今の童磨は俺の伴侶であり嫁であることは間違いないのだから。
 この日のために設えた祭壇にそっと童磨(のアクスタ)を飾り、手を合わせて拝んでしまう。俺の嫁がこんなにも見目麗しく色っぽく愛らしい姿で再現され出迎えられたことに対しての感謝と、やはりその格好は度が過ぎてアレ過ぎるし特に胸のデカさとか色っぽさとかけしからんさとかそこまで再現しなくてもいい嘘してくれてありがとうだが俺以外の誰を誘っているのかという煩悩と怒りを振り払うために。
(にしても…)
 ふとこのアクスタを組み立てた際、一時期犬がシンボルマークになった青い鳥のSNSに流れていた情報を思い出す。

『教祖様の穴がキツキツでした』
『思っていたよりハメづらかった』
『最初はきつかったけど一度ハメたら後はスムーズにハメられたけどね』

 それがアクスタのはめ込み口なのは明白だが、如何せんいかがわしいニュアンスを感じるのは気のせいではないのは、俺が童磨と身も心も結ばれているからに他ならない。断じて俺の心が汚れているわけではない、はず。
 だが実際、いくらクオリティが高いとはいえ、〝昔〟ほどではないが俺の馬鹿力で買ったばかりの童磨を壊すことはあってはならないと慎重に凹凸部分を四か所はめ込んだのだが、確かに最初はきつかったが、そこさえ嵌めてしまえばあとはスムーズに入った。
(確かにきつかった、が……)
 ここで思考を断ち切ればよかったのだが、如何せんこのアクスタは〝昔〟の再現率が高すぎる。というか俺自身、あの方が鬼全体にかけていた同族嫌悪の呪いにプラスして失った大切な人たちを彷彿とさせる童磨を忌避していたためまじまじと見つめる機会すら少なかったのだから、あの頃のコイツはこんなにも色っぽかったのか!?と見れば見るほど実感させられ、そして悶々とした妄想が頭の中をよぎっていくのだ。

『ん、ぁんっ♡ あか、ざどの…っ♡』
 桑の実色の生き物全般をダメにするクッションの上にこの豊満な身体を押し倒し思う存分その胸を揉みしだきたい。そう言えば昨夜のあいつも散々俺に胸を吸った揉んだされ、そこだけで3回は達していたな。
『あぅぅっ♡ らんぼうにしちゃ、いやぁあ…♡♡』
 〝昔〟の信者たちに身を捧げていた記憶はあったと言えど、今生の童磨の身体は無垢そのものだった。快楽はそれなりに拾えたと言っていたが、初夜の時、あいつは『こんなのはじめてぇぇ…!やぁ、へん、あたまばかになるぅうっ♡♡』と啼きながら俺の指と魔羅をキュウキュウに食い締めて虹色の瞳を涙で滲ませていたが、〝あの頃〟のコイツの身体はどんな具合なのだろうか??

「っ、」
 手を合わせて拝んでいた数分前とは打って変わって、俺の脳みそは真っピンクの爛れた煩悩に支配されてダメになっているのをありありと実感する。そして悲しいかな、俺に似た馬鹿正直な愚息は脳内再生の中の伴侶の乱れた姿と〝昔〟にありえなかった妄想に充てられて、ジーンズの中で徐々に硬く萌し始めていた。
「……俺は、俺というヤツは…どうしてこう……」
 ただ俺は俺の嫁の待ち侘びたアクスタを純粋な心で愛でたかっただけなのに。いつからこんな爛れた不埒な男になってしまったのだろうか。これも〝昔〟の反動なのか。最初からそうだっただろうという反論は認めない。
 とりあえずなすべきことはただ一つ。兆し始めた息子を慰めること、ではなく。
 部屋を出て廊下を渡りドアを開け、リビングを素通りしてダイニングキッチンへと向かう。
「あ、猗窩座殿♡」
 そこに立っているのはフライパンを振るいながらこちらを振り替える愛する伴侶の姿。
「もうちょっと待っててね。今日は鶏と海老のあんかけ炒めだから♪」
 卵とワンタンのスープとサラダも用意してメインディッシュを作っている俺の嫁の笑顔が今日も目映く健気で愛らしくてたまらない。
 だからこそ俺は決意する。
「童磨」
「ん? どうしたんだい??猗窩座殿」
 アイボリーのコットンシャツとスウェットパンツの上からピンクのエプロンをする童磨に抱きつきたいのをぐっとこらえ、俺は調理器具が収められている下部に位置する収納スペースの扉を開けて、比較的重たいフライパンを取り出して、童磨にずいっと差し出した。
「あ、もう一品リクエストかな?」
 何でこの期に及んでもお前はこんなに優しいんだ。当たり前のように俺に答えようとするんだ。これだからお前が好きなんだ愛してる結婚しようもうしてた!だからこそ俺は自分が許せない。
「違う」
「??」
 キョトンとしたその顔にもそそられて、ますます愚息は育ち始めそうになる。だが、そうなる前に。
「これで何も言わずに俺を好きなだけ殴ってくれ」
「はい?!」
 虹色の瞳がこれ以上に無いほど見開かれ、素っ頓狂な声が出る。なんだそれ可愛いな。
「ちょっとちょっと待ってくれ猗窩座殿! 一体あなたに何があったの?!?!?」
 慌てた様子で火を止めて童磨が俺の手からフライパンを取り上げ素早い勢いでそれを元の位置に仕舞い、長い足で扉を閉じて、俺が開けられないようにガードする。そうか、フライパンじゃお前の気は収まらないか。それなら。
「ならこれで俺を思う存分刺「もっと駄目だよ!! 何考えてるの?!?! そんなことしちゃ死んじゃうし、俺が捕まっちゃうよ!!」」
 近くにあった包丁を手に取り愛しい人に差し出しながらそう言えば、必死に訴えかけてくるその声にハッと俺は目を見開く。そう言えばそうだ。俺の自分勝手な欲望のために童磨を人殺しや傷害の罪を着せる訳にはいかない。となると俺がエクストリーム反省するしかない訳なのだが反省できた試しがない。いかん、八方塞がりだかくなる上は書置きを残してしばらく富士の樹海へ。
「待って待って猗窩座殿! 一体さっきから何の話!?!?」
 ぐっと俺の両肩を掴んだ童磨が俺の瞳をじっと見つめる。その虹色の瞳は俺のことを案じている色がありありと浮かんでいた。
「今日は俺のグッズが来るって前々から楽しみにしてたよね? で、無事に届いたんだよね??」
「…ああ」
 そう、それは以前から伝えていた。実物のお前が一番であるのは勿論だが、待ちわびたお前のグッズを思う存分愛でさせて欲しいからと食事当番を変わってもらえないかと。それを快く了承してくれた俺の嫁マジで菩薩だろう。本気で愛している。
「なのに何でそんな風にいきなり物騒な話になっているんだい??」
「…それは…」
 だからこそ言えない。いくらなんでもそれは言えない。童磨の出来過ぎた心に頭を下げこそすれ、こんな下劣な想いを抱くなどあってはならないことなのだ。だからこそ俺は恋人の手で俺自身のサルゴリラチンパンジー並の性欲の暴走を抑えてもらおうと思ったのだ。
「……あのね、猗窩座殿」
 目の前の童磨の顔が何とも言えずに複雑な顔をしている。〝昔〟のように正論だけを悪気なくぶちかましていた時とは比べ物にならないほど悩ましく見えるその顔に、俺は思わず口を噤む。
「…全部、声に出てるよ」
「……は?」
 今何と言った?
「…だから、全部声に出ちゃってる…。つまりその…、俺のアクスタに、そういう気持ちを抱いちゃったって…」
「○×▽◇※■!?!?!?!」
 この時の俺は日本語はおろか人語とも及びもつかない音の羅列を叫んでいた。もうダメだこんな不埒な思いを知られたとなれば俺は腹を掻っ捌いて、いや、首を切り落として詫びるしかない!!愛するお前を残して逝くことは心苦しいがこれが俺のけじめだどうか許して欲しい。
「許す許さないじゃないってば!! また俺を置いて逝くの!?!?」
「はっ!?」
 その言葉は俺には効果覿面だった。そうだ、俺は〝昔〟コイツを置いて逝ってしまったのだ。ならば俺はこの罪を背負って生きていくのみ。
「…猗窩座殿って結構思い込み激しいところあるよなぁ」
 はぁ、と一つ溜息を吐かれてしみじみそう言われてしまい、思わず眉間に皺が寄るのが分かる。思い込みが激しいのではない。お前への愛が自重できないだけだ。

「俺、一度も嫌だなんて言ってないよ?」
「……………は?」

 今、コイツは何と言った??
 寝耳に水、青天の霹靂。すわ聞きまつがいか??
「だから、俺の〝昔〟の姿のアクスタを見て、そういう気持ちを抱くほど、あなたは俺を好いていてくれているんだろう??」
「そ、れは…、そうだが…」
「じゃあ逆に聞くけどね?」
 話が長くなるとお互い察して俺たちはキッチンから移動してダイニングテーブルを挟んで斜め向かい合って座っている。あらかたの事情を話し終えた俺の卓上に投げ出されている手が、少し温度が低い童磨の滑らかな指でそっと包まれた。
「俺が、あなたのアクスタにそういう気持ちを抱いたら、あなたは気持ち悪いって思うってこと?」
「それはない! 断じてない!! むしろ望むところだが、俺というものがありながらという気持ちもぬぐえない!!」
「正直だなぁ」
 ふふ、と花のつぼみが綻ぶように笑う童磨に、俺の胸はとくりと音を立てる。
「つまりね、俺もそうだってこと。むしろ〝昔〟のことを考えたら、そう思ってくれて嬉しいっていう気持ちしかないよ」
 すり、と童磨の指が俺の手をなぞるように動く。くすぐったくもどこか官能的な動きに封じたはずの情欲の火が灯っていく。
「…ねえ、猗窩座殿…」

────…今から、シようか?

「~~~~~~~!!!」
 俺の気持ちを受け止めて、身を乗り出して今にも口づけできそうな距離にまで詰められて、そんなことを言われてしまっては、断る理由など微塵もありはしない。
 ゴクリ、と唾を飲み込みながら俺は噛みつくように童磨にキスをする。
「んっ♡ふぅ……んっ♡♡」
 この一瞬で、深く深く根こそぎ奪うキスを仕掛け、甘い声をあげてくたりと椅子の上にへたり込みそうになる童磨を俺は素早く移動して姫抱きにして持ち上げる。
「ぁ…」
「お前が作ってくれた飯も魅力的だが、今のお前の素晴らしい提案が一番美味そうだ」
「ふふ♡そうかぁ♡♡」
 そうして俺は寝室に向かって歩き出す。その途中で『折角だから〝俺〟の目の前でしないかい?』というとんでもなく素晴らしすぎる魅力的な提案に全力で乗っかかり、昼食が夜食になるほどに童磨を愛し抜いて抱き潰すこととなった。

 ちなみにしばらくの間、そういう雰囲気になった際、童磨のアクリルスタンドの位置をそれとなく寝台から見やすい位置へ持って行くのが合図となったことを余談として付け加えておく。

 

実際Twitter上での情報を見て、そんなにキツイのかと思って組み立ててみたんですが、思いの外きつくなくてホッとしました。
しかしながらマジで再現率もクオリティも高い。つうかなんだあの胸のデカさは(*´д`*)
毎日飾って眺めるたびに大きくなっているような気がします(重度の幻覚)

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