X'mas love is amazing4



ハッピークリスマスモーニング

さて、そんな聖(性)なる夜を過ごした猗窩座が目を覚ませばすでに会社に行く時間だったが、今日は土曜日なので仕事は休みだ。 電話口で散々童磨を追い詰め、達かせて、自分もまた恋人の痴態を想像して絶頂に達する。盛り上がりはしたものの訪れた倦怠感にたちまち虚しくなったばかりか、賢者タイムに隣にいない恋人の温もりを意識してしまい更に寂しさを募らせた。 後回しせずに子種が付いたテイッシュの後始末をし、軽くシャワーを浴びて眠ったので今日に持ち越すことはなかったが、やはりむなしさが付いて回る。 あと四日ほどで童磨の元に帰れるのだから今日は大人しく寝ていようと思った猗窩座のスマートフォンから軽快な着信音が鳴り響いた。 「チッ…」 もしかしなくても休日出勤の要請かと思わず舌打ちが出るが、曲がりなりにもクリスマスの土曜日にこんなくさくさした気持ちで一日過ごすのも勿体ない。むしろ仕事ならこの気持ちも晴らせると思い、ディスプレイを確認せずに電話を受け取った。 「…はい、頼田です」 会社からだと思い込んだ猗窩座は居住まいを正して無礼にならないトーンで電話に出る。だが電話の向こうの主はしばらく何も言ってこない。 「もしもし? 頼田ですが」 電波状況が悪いのだろうか? 聞こえていなければ不味いと思いもう一度自分の名前を名乗った次に、『猗窩座殿…』という声がスピーカーから聞こえてきた時は、思わずベッドの上の身体を飛び跳ね上がらせてしまった。 「童磨!?」 『はい、童磨ですけども…。猗窩座殿が頼田ですって出るの、初めて聞いたよ』 そう言いながらクスクスと笑う童磨に、昨日電話越しで散々触れ合った熱が蘇ってくる。 散々身体を重ねては来たが、未知なる興奮に溺れて快楽を得た昨日の今日というほど時間も経っていない。思わず顔が熱くなってくるのを誤魔化すように猗窩座は目元に掌を宛がいながら、ぼすんと再びベッドの上で寝転がった。 「あ、あー…その、元気か?」 自分でも訳の分からない言葉が口をついて出たと実感する。元気じゃなかったら昨晩あんなこと提案しないだろうとセルフツッコミを内心でしまくる。そんな猗窩座に『もちろん元気だよ、だからここに来たんじゃあないか』と返ってきた言葉にそれは何よりだと返事を返してからハタと気付いた。 「ん?」 元気なのはわかっている。それはいい。だがその次に続いた言葉は一体どういう意味なのだろう。 「おい童磨、それって…」 『あれ? もしかしてLI〇E見ていないのかい?』 「あー…すまん、今の今まで寝てたから」 『いいよいいよ、許すぜ』 俺は優しいからなというお決まりの台詞が告げられた後、窓を開けてみてくれよという童磨の声に、猗窩座は勢いよくベッドから起き上がり適当な服を身にまとって勢いよく部屋から飛び出していった。 会社が用意した302号室から飛び出して、エレベーターを待つ暇も惜しく、非常階段を一気に駆け下りてエントランスへ向かい、自動ドアが開いたと同時に身体を割り込ませて外に出る。 薄曇りの雪空の下で、電話の向こうで散々に愛を確かめ合った当の本人がスマートフォンと旅行鞄を持って、マンションの門のそばに立っていた。 白のチェスターコートに真っ白いボアキャップ。首元には赤と黒のメルト柄のマフラーを巻いたその姿は、控えめに言って雪と氷の妖精かと猗窩座は思う。 恐らく電話を繋いだまま勢いよく降りてきたのが分かったのだろう。すでにスマートフォンはコートのポケットの中に入れられているのか、手袋を嵌めた両手には何も持っていない。 「童磨!」 冬の北国の突き刺すような寒さを肌に感じたがそんなことは気にならない。目の前に童磨がいる。その事実だけで猗窩座は十分に暖まれるからだ。 「おはよう、猗窩座殿」 ニッコリ笑って両手を微かに広げた恋人めがけて猗窩座は勢いよくその温かく豊満な身体に飛び込んだ。 「童磨…、どうま…!」 どうして彼がここにいるのか。今はその理由を聞くよりもこうして彼の存在と温かさを感じ合いたかった。 たかが一か月、されど一か月。LI〇Eで愛しさをひたひたと募らせ、昨晩は電話越しに愛を確かめ合ったけども。 本当に優しく包み込む実物の愛の権化には叶わないと、猗窩座は豊満な身体に抱き着き顔を埋めながらそう実感するのだった。 ちなみに猗窩座が飛び出していった音でマンションに残っていた出張組はそんな二人の再会を、と〇りのト〇ロでおばあちゃんに連れられて学校にやってきたメイに駆け寄るサツキを見守るモブのようになっていたが、猗窩座の鬼の一睨みでびゃっと一斉に引っ込むことになった。 「で、どうしてわざわざこっちに来たんだ?」 しばらく抱き合っていた後、猗窩座がくしゃみをしたのを聞いて、パッと腕を離した童磨が薄着で降りてきた猗窩座を心配し、部屋に返した。 こんなことでどうにかなるようなやわな鍛え方はしていないと(言いつつ、実のところ童磨不足を補っていただけなのだが)猗窩座は言って聞かなかったが、今日は会社は休みだろう?折角だから一緒に出掛けたかったんだけど…と少しうなだれたように訴える童磨に、秒で着替えてくるから待っていろ! とだけ言い捨て、来た時と同様に非常階段を使って高速で部屋に戻り着替えて降りてきた。ちなみに猗窩座が部屋に戻った隙に突如現れた雪と氷の妖精の化身をもう一度見ようと顔を出した数人のモブたちは、幸せそうに猗窩座を待つ童磨の笑顔に『尊すぎて直視できない』と胸を押さえ、一日中悶えていたという。 閑話休題。 時間は午前10時を回ったところ。今日がクリスマスであるにも関わらず、街の雰囲気はどことなく年末ムードにシフトチェンジしつつあった。 少しだけ人通りの多い街中の雪は、すでに足跡だらけで水たまりになっている箇所すらある。だが二人はそんなことは気にせずに、以前猗窩座が童磨と一緒に訪れたいと思って目星をつけていた喫茶店へと向かっている最中である。その中で不意に猗窩座はなぜ童磨がここにいるのか気になり、それが上記の台詞へと至る。 「んー…、考えてみたらさ、俺、こっちでも仕事できたんだよね」 「は…?」 思いもよらない童磨の告白にただでさえ大きな猗窩座の瞳が見開かれる。 「いやね? 確かに猗窩座殿が出張に行く間際は色々立て込んでたよ。クライアントとの打ち合わせもあったし勉強会の予定もあったから」 そんな童磨の告白にそういえば何かと忙しそうだったなと猗窩座は思い至り、黙って聞いていた。 「でもさ、昨日のアレソレが終わった後、どうしても会いたくなって…。その時初めて気づいたんだよ。あっちですべきことは早い内に終わっていたのに、どうしてもっと早く行かなかったんだろうって」 だから会いに来たんだと呟きながらも、俺は賢いはずなのに何で今の今まで気が付かなかったかなぁと苦笑する童磨に猗窩座もまた吹き出してしまう。 「お前もたいがい抜けているよなぁ」 「むぅ…」 唇を尖らせて少しふくれっ面をする童磨を見て、ますます彼を可愛いと感じてしまう。 「むくれるな。そんなお前も悪くないのだからな」 ぷくぅと膨れた頬をつんのこしてやれば、猗窩座殿がそう言うなら…とまんざらでもない様子で童磨は返す。 確かに彼は賢くどちらかと言えば合理的だ。しかしその合理性が自分絡みで発揮されず、結果回り道になってしまった。 だがそのことに思い至らなかったということは、それだけ自分に夢中になってくれているということで。そしてそんな回り道を導き出して実行に移してくれた童磨がたまらなく愛おしくて仕方がない。 「…来てくれてありがとうな、童磨」 「…俺が来たくて来ただけだぜ? 猗窩座殿」 「それでもだ。俺は嬉しい、ありがとう、童磨」 「…どういたしまして…」 会えないと諦めていた三日間、こうして会いに来てくれた。 来たくて来ただけと童磨は言うが、その来たくて来るという行為自体が他ならぬ自分のためを想っての行動であること。それによってどれだけ自分が嬉しくそして喜んだかという気持ちを込めた礼を言えば、少し頬を赤らめる恋人が愛おしくて仕方がなかった。 そんな風に歩いているとお目当ての喫茶店が見えて来る。 「お、着いたぞ、ここは卵プリンとオムライスが美味いそうだ」 「へぇ、そうなんだ!」 恥じらい顔から一転して楽しみだなぁと笑顔になる童磨に、相変わらずコロコロと表情が変わる奴だなと猗窩座もまた自然に笑みが零れていく。 クリスマスの食事としてはささやかかもしれないが、今はこれでちょうどいい。どうせ夜は色んな意味で豪勢なご馳走を互いに食べるのだという思いと共に、猗窩座はしっかりと童磨の手を繋いで喫茶店の扉を開けたのだった。

  


作品ページへ戻る